アダム・リース・ゴウルナー『フルーツ・ハンター:果物をめぐる冒険とビジネス』

フルーツ・ハンター―果物をめぐる冒険とビジネス

フルーツ・ハンター―果物をめぐる冒険とビジネス

 読むのに結構かかったな。5日か。個人的には、果物ビジネスと第三世界の関係みたいな話を期待していたが、なんというか、果物マニア、奇人変人大集合みたいな感じだな。世界の各地を巡って熱帯の果実を収集、商品化しようとする人々、失われつつあり在来の優良品種を保護しようとする人々、果食主義者、果物探偵などなど。著者が、直接訪れ、味わい、話し合った経験を中心に、一人称で書かれているが、これが個人的には逆に読みにくくしたような気がする。著者と一緒に、複雑かつ奥深い、果物マニアの世界に分け入るといった感じか。
 ビジネス関係に関しては、第三章が当てられている。収穫から梱包、検疫を経て、スーパーマーケットに並ぶまでに三週間程度かかり、その結果、日持ちのする品種が重視されていること。その結果、食味や香りなどが劣るものが一般に流通しているという。また、ミラクルフルーツとミラクリンの許認可から見える規制と政治力の問題。食料品の規制が、加工流通業者の利害によって行われている状況。正直、アメリカの食品流通については結構疑いの目で見ているな。狂牛病vCJDアメリカでの状況なんかもそうだけど、なるべく調べないようにしているように感じる。
 この本を読んでいて、そう言えば、ここしばらく生の果物は食べていないなあと思った。あとは、さまざまな果物が美味しそうだなと。美味しい果物とは、そんなに薫り高いものなのだろうか。この季節の旬はなんだっけか。


 以下、メモ:

 昔はすべてのイチジクがハチを必要とした。イチジクでお単為結果による種なしの品種が現れたおかげで、人間が栽培できるようになった。最近になって、単為結果イチジクの紀元前11400年までさかのぼる栽培跡が、ヨルダン渓谷で見つかった。植物考古学者たちは、これが農耕のもっとも古い証拠であり、小麦や大麦といった穀物の栽培化よりもさらに一千年ほどさかのぼるのではないかと考えている。p.47

 人間、必需品よりも、嗜好品の方にエネルギーを割くものだしな。最初は果物の可能性はあるかもな。

 何千種という果物は期待をかきたてるだけで、北アメリカやヨーロッパには決して入ってこないが、地球の裏側では毎日のように食べられている。だが、それらの果物が実際にあることを知っていても、国境を越えて果物を輸入する過程には、植物学的、経済的、地政学的な難題が山積みしている。さらに事情を複雑にしているのは、知名度の低い果物は輸送する手間に見合うだけの十分な収量がないという点だ。旬の時期もごく短い。おまけに多くの果物は大量栽培されていないので、品質に大きなばらつきある。これらの問題はどれもフルーツ・ハンターの血を騒がせるとはいえ、スーパーマーケットの供給網からは排斥される原因となる。p.110

 国際流通の問題。スーパーマーケットが多様性を破壊しつつある状況はアメリカでも同じなんだな。

 二十世紀初頭でさえ、植物採集は人跡未踏の荒野に飛びこむことではなかった。まずは市場に出向くのである。おおむね、それぞれの果物の優良品種はとっくの昔に発見され、望ましい形質を求めて、何世代にもわたって選別育種されている。民俗植物学の研究では、いまでも森林、産地、平野、峡谷での実地調査が欠かせない。研究者はヘリコプターやパラシュートを利用し、全地球測位システムGPS)やレーダー機器を駆使して目標に迫る。だが、現代のフルーツ・ハンターたちの大半は処女林にさほどこだわらない。現地でガイドを雇って、個人経営の農園や果樹園、農業関係の省庁、植物園、養樹園、ハーブ園、研究所、そして村の市場に案内してもらう。p.125

 これって、現地で蓄積されてきた集合知の横領だよなあ。商業化された場合は特に。だからこそ、生物多様性をめぐる問題で、利害が対立するわけだが。

 太古からの森林を破壊することは、悲劇的な結果につながる。狩猟採集民のペナン人はこれまでは野生の木の実を主食にしてきたが、もはや伝統的な生活を維持することができない。彼らの食料採集場所が消失してしまったので、マレーシア政府は同化政策をすすめている。前サラワク州知事のアブドゥル・ラハム・ヤクブは「彼らにはマクドナルドのハンバーガーを食べてもらいたい。口にするのもはばかられるジャングルの食べ物よりはましだろう」と発言した。p.131-2

 はっきり言って、マクドナルドの食いものの方がアレだと思うが。ジャングルで採集生活をしている方が健康に良い食生活なのは確か。たまに無性に食べたくなるが、マックなんざ常食するもんじゃねえ。

 さまざまな危険が含まれていることから、農産物の世界では無罪と証明されるまでは有罪である。果物の安全を立証するには費用がかかり、また何年もの調査研究が必要とされる。その間隙を埋めるのが密輸である。世界に張りめぐらされた果実の闇市場がどれだけの収益を上げているかだれも知らないとはいえ。保護の対象である動植物の不法取引による利益は、全世界で毎年六十億ドルから100億ドルと見積もられている。
 ミバエがいなければ、果実の輸入はもっと手軽になるだろう。いくつもの自由貿易協定によって多くの関税および非関税障壁は撤廃されたが、植物衛生に関わる根拠のない懸念は往々にして、外国の農産物締め出しへの錦の御旗となる。実際に果実に害虫が寄生し、それが国内農産物を危険に陥れる可能性がある場合には、この処置はきわめて重要だ。しかしそれ以外の数え切れない事例では、発展途上国からの輸入を阻止する方便になっている。p.184

 果物の密輸。利益が上がるのかと思ったが、そうでもないらしい。あとは、非関税障壁としての、植物検疫。

 近年、果物の密輸取り締まりが厳格になったもう一つの理由は、大量の麻薬が果物の積荷に紛れて北アメリカに流入しているからだ。1990年には、ある検査官がパッションフルーツの缶詰1190箱を確認したところ、その10分の1には麻薬がぎっしり詰まっていた。悪名高いコロンビアの麻薬王アルベルト・オルランデス=ガンボアは、コカインをバナナの皮で包んでニューヨークに送りこんだ。アマード・カリージョ・フエンテスに率いられたメキシコの麻薬密売カルテルは、毎月、果物運送用の大型トレーラートラックとボーイング727機(そのせいでフエンテスは「空の帝王」とよばれるようになった)で何トンもの麻薬をアメリカに運びこんだ。2004年11月には、フルーツジュース、ヒット・フルーツ・ドリンクのカートンの積み荷から170万ドル相当の液体ヘロインが見つかり、マイアミで押収された。p.190

 果物の密輸と麻薬の密輸の結合。不法移民の入国ルートとも重なるらしい。

 ある果実やジュースが健康にめざましい働きをするというニュースが流れた場合、そのもとになる研究はたいてい、既得権をもつ製造業者から資金の援助を受けている。ボストン小児病院の研究者が、業者が出資した111種類の果樹および飲料の研究結果を調べたところ――なんと――それらの研究がしばしば偏向したものであることがわかった。アメリカ癌学会の紀要に掲載された、ざくろジュースの前立腺がんへの効果に関する記事の小さな活字を読めば(その記事は、「今後の研究が待たれる」と結ばれている)、研究費がレズニック夫妻からの奨学金でまかなわれていることがわかるはずだ。
 栄養学は移り変わりの激しい分野で、矛盾、誤った思い込み、幻想にむしばまれている。専門家たちは、さまざまな種類の果実と野菜をまんべんなく食べ、運動することが必要だと口をそろえているが、大方の人間はそれを実行していない。起業家たちは偏った情報につけこみ、マーケティングの力を利用して、特定の果物の治癒効果をおおげさに宣伝する。その結果、くだんの果物が万病に効くことを期待して、大金がつぎこまれる。p.232

 マルチ商法で販売されるサプリメントの売り上げは、年間42億ドルを超える。ミラクル・ジュース産業は、「セルロースバレー(食物繊維ビジネスの拠点)」とよばれるユタ州の州間高速道路15号沿いに集結している。たしかに信仰の押しつけはユタ州に本部があるモルモン教の古くからの伝統であり何世代にもわたって教徒は個別訪問により福音書の教えを広めてきた。だが、ユタ州がこれら真偽のあやしい自然療法の中心となっているのには、別の理由もある。
 オリン・ハッチ上院議員は栄養補助食品健康教育法を提案した人物だが、この法律によって、サプリメントの製造業者は食品医薬品局の承認を得ずに製品を販売することが可能になった。やはりというべきか、ハッチ議員地震がファーミックス社などユタ州の健康食品会社に投資し、巨額の献金サプリメント業界から受けとっている。サンゴ社は2006年、ハッチの選挙戦に4万6200ドルを寄付した。
 多くのマルチ企業は法の規制をうまくかわしてきたが、それは企業とは直接関わりのない販売員が、個人の責任で健康によいと虚偽の制電をしているからである。一般の人がまんまと口車にのせられて、大金をどぶに捨てることを妨げる有効な手立てはなさそうだ。それに、これらのジュースは、不当に高い価格にもかかわらず、一部の信奉者にはご利益があるかもしれない。嘘と事実が交錯するフルーツ・マーケティングの手法は、藁にもすがりたいというぼくたちの気持につけこむ。その真相にたどりつくこと自体が冒険である、とぼくが思い知ったのは、まさに奇跡という名にふさわしい果物がアメリカで発売禁止となった経緯を調べはじめたときだった。p.235-6

 ちなみにレズニック夫妻というのは、ざくろジュースで成功した人間。アメリカの腐敗というのも深刻ではあるな。日本のトクホなんかも酷いけど。最近はテレビが胡散臭い食品の宣伝を積極的にやってるしな。

 日本は冷蔵庫に収納できる四角いスイカや、モモ風味のイチゴが高値で売れるお国柄で、ミラクルフルーツは好評を博している。研究者はミラクルフルーツからミラクリンをつくる遺伝子を取り出し、遺伝子組み換えによってミラクリンを生産するレタスとトマトの開発に成功した。また別の研究では、ミラクルフルーツのタブレットが開発され、室温での長期保存が可能になった。ミラクルフルーツを提供するカフェも大坂と東京の池袋に開店した。この店ではミラクルフルーツのフリーズドライ化に成功した。それをまず客になめてもらい、そのあとでタルトケーキや、酸っぱい果実、ローズヒップ・ティー、レモン味のアイスクリームなど、酸味の強い食べ物を試食してもらう段取りである。2人分のケーキと紅茶で約25ドルかかるが、カロリーは通常のデザートの5分の1しかない。p.252-3

 酸味を甘みに変換してしまうミラクルフルーツがアメリカで禁止された顛末を中心にした章から。アメリカの規制当局ってのは、食品に限らず、盗人に盗人を監視させるシステムになっているよなあ。航空機の安全なんかもそうだが。
 検索をかけると、ミラクルフルーツは通販で買えるようだ。おもしろそうだけど、どこまで販売業者を信用できるか。食品は通販したくないというのが正直なところ。
味覚を騙す不思議なフルーツ”ミラクルフルーツ”を食べてみた。

 ユナイテッド・フルーツ社の人権侵害には枚挙のいとまがない。数十年間、労働争議を武力で制圧してきた。暴力を交渉術の中心に据え、1928年にはコロンビアで、同社の意向をくんだ軍隊がストライキに参加した労働者に発砲するというサンタマルタの大虐殺が起こった。ユナイテッド・フルーツが所有するバナナ輸送船グレート・ホワイト・フリート号は、二度の世界大戦で兵士や補給物資を運搬した。戦後は、キューバカストロによるプランテーション国有化に抵抗して、ピッグス湾事件に資金を提供した。ホンジュラスでは、軍隊を使っていくつもの村を排除し、加工工場やバナナ畑をつくった。中米諸国の首脳に賄賂を贈り、輸出税の引き下げをもくろんだことを米国証券取引委員会に暴かれている。1995年に米国議会図書館が公表した資料から、ユナイテッド・フルーツが、1954年にグアテマラ政権を転覆し、その後数十年にわたるない内戦を招いた軍事クーデターで、決定的な役割を果たしたことが明るみに出た。また、農薬の危険を知りながら、バナナ労働者たちを致死レベルの殺虫剤にさらしてきた。根食い線虫の防除薬DBCPの使用で、三万人を超える南アメリカの男性が生殖機能に障害をうけた。1975年、ユナイテッド・フルーツ社のCEOエリ・M・ブラックは、四十四階のオフィスからパーク・アベニューに飛びおりた。p.262

 本当に悪役だなあ。こういうのを見るにつけ、バナナを食う気がなくなっていく。

 このような強硬策が長らく国際貿易を支配してきた。アメリカは世界最大の食料輸出国で、毎年400億ドルの農産物を――200億ドルの助成金つきで――輸出している。これらの作物の原産国では、いまやアメリカから買うほうが自国で栽培するよりも安くつく場合が少なくない。p.263

 輸出額の半分は税金ですか。すごいな。つーか、こういうのどうなんだろうな…