宮崎学『となりのツキノワグマ』

となりのツキノワグマ (Deep Nature Photo Book)

となりのツキノワグマ (Deep Nature Photo Book)

 自然の観察や自動撮影装置を使って、ツキノワグマの現状を描き出している。熊本県ってのは、熊が県名につくが、実際にはクマが生息していないので、熊と隣り合った状況がよく分からないところがある。自分ちのそばで会いたくないとは思うが。
 人間がよく利用する遊歩道を熊が頻繁に行きかっている状況や人間の居住地のすぐそばで多数の熊が食事をとっている痕跡なんかを見るとゾッとするな。庭先の栗の木で餌を食べている状況とか、危険だわな。あとは、放獣が事実上機能していない状況とか。
 あるいは、どんなものを食べているか。さまざまな果実類、蜂蜜、アリの幼虫などが紹介されている。糞をアップで撮った写真が見開きで紹介されているが、ちょっとおもしろい。あまり見てて気分がいいものではないが、熊の食生活についての情報がストレートに反映されて興味深い。
 本書では、熊の生息数に関して、熊森などが主張する希少性を否定し、90年代以降急激に増えていると指摘する。118ページの熊の解体写真を見ると、皮下脂肪がたっぷりとあり、説明にはこうある。

きれいに内臓を取りだし、血抜きをされたクマ(左)。肉屋さんは、まず包丁で皮をぐるっとはいでいく。内側の白い部分はすべて脂(右上)。皮をはいだら、背骨を中心に2枚におろす。この写真を撮影した2006年はドングリの実りが悪く、クマたちはみなえさ不足で里へでてきたと言われていたが、えさ不足で痩せているどころか、こんなに(8cm)も脂がのっていた(右下)。オイラはこの数年、何十頭というクマの肉を確認しているが、痩せているクマなど、1頭も見たことがない。

 こうなると、クマが増えて生息地から人里に押し出されてきていると解釈した方がよさそうに思える。