小原秀雄『都市動物たちの逆襲:自然からの警告』

都市動物たちの逆襲―自然からの警告

都市動物たちの逆襲―自然からの警告

 都市という環境に適応して、新たに分布を広げる動物たちの状況を描いた本。都市に生息する野生動物たちとどう付き合っていくべきかを考えさせられる。ラストの「動物たちに理性的愛を、温かい無視を、と」って言葉が印象的。
 第一章は隙間で分布を広げる小型動物たち。ドブネズミからクマネズミへの勢力交代と、毒物への耐性を獲得したスーパーラット。都市に適応するコウモリ。シラミ、ゴキブリ、ハエ、蚊、ツツガムシ、ダニなども衛生害虫たちの都市への適応。都市に適応し、人間に被害を出すようになったスズメバチ。そう言えば、夏になると、私の家の周辺でも夕方にコウモリをもかけるな。どこに住んでいるか知らないが。
 第二章は、都市における鳥たちの勢力変化の動向。残飯をはじめ都市での食糧獲得能力によって勢力を伸ばすカラス。「愛らしい」外観によって、人間から食料を与えられ、それによって勢力を伸ばすユリカモメやドバト。人間の改変した環境に適応したスズメやムクドリ。動物園の餌を横取りするカワウなど。照明によって夜間も明るい都市での生活に適応し、夜間に活動する鳥たちなど。熊本市東部の住宅地では、ムクドリをよく見かけるような気がする。ムクドリヒヨドリの区別がいまいちつかない程度の観察者だけど。
 第三、四章は、人間が従来の生物を排除した生態系の空白地域に急速に分布を伸ばす外来生物たち。タイワンリス、アライグマ、ハクビシン、チョウセンイタチ、ブラックバス。鳥に害虫。人間がペットとして移入した生きものが逃亡野生化した事例が非常に多い。あとは、「生物農薬」として導入された昆虫が、どう生態系に影響するか。
 第五章は、人間活動が生態環境を再編してしまう状況。人間が手を加えていない本来の「自然」というものがほとんど存在しなくなった状況。「野生」が残されている場所も、人間が残す意図を持って残してあるという状況。人間の営為が野生動物の命運を左右する。その中で、非行を行う動物たちを生みださないように、動物たちの「民族自決権」を考え、「理性的愛」で接する必要を指摘している。鹿などの個体数コントロールについても、自分たちの環境破壊の結果であることを自覚しなければならないという指摘されている。


 都市という、人間の都合で制御される環境に適応できる生物のみが急速に勢力を拡大し、その結果人間の意図しない害をもたらすようになった状況。そして、単なる適応ではなく、「可愛らしい」動物が人間から餌を与えられて、それによって勢力を拡大するという状況の問題点が指摘される。タイワンリスなんかも、その愛らしさで人間の保護を大いに受けている状況が紹介されている。このあたりの気軽な餌やりが生態系を左右してしまうということにはもっと自覚的である必要があるわな。
 あと、全体的に90年代に入ってから目立つような印象だが、このあたり「都市」という生態環境がある程度安定したということなのだろうか。


 以下、メモ:

 川崎市の衛生研究所によると、アタマジラミは八〇年代に急激に増加し、現在はやや減少している。ただし、これは苦情や相談件数の減少である。なおコロモジラミは、ホームレスの増減と関係していて、件数の増減に大きな変化はない。コロモジラミは、筆者の体験がその行動を示している。戦時中に洗濯などができなくなった場合に発生しており、都市での路上生活などと関係が深い。p.33

 コロモジラミに関しては、相談件数の増減と生息数には関連がないということだろうか。ホームレスの人たちがこういう所に積極的に相談することはなさそうだし。

 さまざまなタイプの都市の水辺には、ユリカモメを中心に、あるいは専門に餌を与えている「おじさんやおばさんがいるもの」だという。毎日のように自転車に「びっくりするほどたくさんの食パンの耳を積んできて、バラまく」。そして「困ったことには、彼らはほぼ全員で『このユリカモメは自分一人が世話している』と思い込んでいる。そんな人が一ヶ所に何人もいる。さらにそのような常連の人々の行動を見て、スナック菓子を与えるカップルや親子連れもあとを絶たない。ユリカモメのくる公園の売店に「カッパえびせん」の数が増えたと思うそうだ。そして「冬は食パンの入荷を二倍から三倍に増やしていると証言する川沿いのパン屋さんも実在する」というから驚きである。p.102

 本当に人間が養っている状態か。ハトやユリカモメみたいに、餌に集まってくる系の鳥には、餌やりしたくないな、私は。

 ところが、大正時代の記録によると、ムクドリはこれらの地域では山岳地帯でも稀れであり、東部でも特に多いとは記されていない。ということは、ムクドリは都市化の第一段階において増加すると見られるのだ。p.111

 住宅地はそれなりに住みやすいということか。

 アライグマは伝染病の媒介者となる恐れもある。日本ではまだ問題になっていないが、海外から移入されたペット用アライグマは、狂犬病ウイルスの保菌者となる恐れがある。
 それ以外に、アライグマカイチュウというアライグマの小腸に寄生する回虫の卵が、糞により排出される。それが食物などに付着した状態で人間が呑みこむと、孵化した幼虫が、脳や目の網膜に入りこむ恐れがあり、すでに米国では死亡例もある、日本では動物園飼育の個体から検出されている。
 見かけの愛くるしさに、人間は常にまどわされるが、伝染病に関しては、人獣共通感染症を媒介する点で、ハクビシンより恐ろしいといえよう。p.158-9

 うげー。ペット動物の輸出入管理は相当厳格に行われるべきだと思う今日この頃。

 今となっては、ニホンザルの方だけを非難することは難しいし、人間側の「犯行」を防ぎ切るのも難しい。餌を与えることがどれほど当の動物たちを堕落させることか。それだけでなく本質的には苦しめる結果となることを理性的にはわかっていても、この流れを止めることは難しい。動物を愛することは、野生動物なら自由を、家畜動物ならば福祉を、つまりその動物の性質に則した適正な飼育のしかたを、である。野生動物の自由は、人間が餌を与えないだけでなく、自活できる自然な生活場所を確保してやることである、私はよく少数民族への「民族自決」権の具体的保証にたとえる。p.231

 野生動物との付き合い方。安易に餌を与えてはいけないという話。