- 作者: 廣瀬陽子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (12件) を見る
旧ソ連や旧ユーゴスラビアの領域に出現された、国際的な承認をうけていないアブハジアや沿ドニエストル、コソボといった国々が中心。他にも、台湾やソマリランドなど。国連に議席を持たない、国際的な承認がなされていないといったところが、基本的な性格か。
国際社会の原則が、「領土保全」と「民族自決」の二つで、時期によって揺らぐこと。連邦国家の解体による地域社会の再編の中で、「民族」というのがアイデンティティの前面に出てくるときに紛争がおき、未承認国家ができやすい。「ネーション」をめぐる議論。
西側諸国が未承認国家を積極的に支援した事例であるコソボ。それが、今度はロシアの未承認国家支援の論拠となっていること。「危険な前例」としてのコソボ問題が、グルジア紛争やクリミア編入などに絡めて議論される。コソボというか、「大アルバニア主義」が、バルカン半島の新たな不安定要因になりそうで不安だよなあ。コソボの独立、そこから「民主的に」アルバニアへの統合という動きが、領土的野心を刺激しそうな。
第4章の未承認国家の存続要因みたいな話も興味深い。その国自身だけではなく、「法的親国」やパトロン国から必要とされるから、存続できる。否定する側の「法的親国」にとっても、権威的体制を維持する言い訳に利用できる。密輸の拠点としての未承認国家。また、アメリカやロシアといった「帝国」にとっては、未承認国家に配置した基地をテコとして地域に影響力を行使できると。ロシアが、アブハジア、沿ドニエストル、南オセチアに軍事基地を置いて、直接支援しているのは、有名な話だが、アメリカも未承認国家を利用していると。台湾やソマリランド、コソボには、米軍の基地が置かれていると。で、これをすっきり解決する妙案は存在しないと。
実は半分強の人々が独立を歓迎していないモンテネグロ、人工国家として国民の忠誠心を集め切れていないコソボ、日本語が分かるスパイに引っ付かれる沿ドニエストルといった現地調査の話が興味深い。正直、個別性が強く、カテゴリー分けがあまり意味を持ちそうにない、全体的な議論より、現地調査を前面に出して書いたほうがおもしろかったのではなかろうか。
そして、このような脆弱なライン上には壁が作られるケースが多い(西サハラ、パレスチナ、北キプロス、ナゴルノ・カラバフなど)。日本は島国であるためイメージしづらいが、大陸では、検問所やパスポートコントロールなどの設備はあっても、壁で国家の境界線が示されているケースは多くない。つまり境界線に壁が設置されるというのは、むしろ異常事態だ。p.49
うーん、冷戦時代の東西境界線とか、アメリカでまさに「壁」が建設されようとしていることを考えると、どこまで「異常」なのか分からないが。