- 作者: 杉山正明
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モンゴル高原の遊牧民たちが統一され、「モンゴル」という国家が出現。怒涛の勢いで、ユーラシア北半の遊牧民世界を制覇。イランや中国北部といった農業地域も支配下におさめる。チンギス、オゴデイの二代のカアンの後の、混乱と停滞。クビライによる奪権と巨大な建設の時代。クビライ没後、徐々に揺らいでいく帝国。13-14世紀、ユーラシア社会の構造そのものを改変したモンゴルの「時代」全体を描こうとする著作。
しかしまあ、今どきモンゴル史をやりたかったら、ペルシア語と漢文の史料を、両方読みこなす必要がある。さらに、研究史に触れるならロシア語必須。なかなかの語学地獄だな。逆に、外国語習得のセンスがある人だったら、沃野が広がっていそうだけど。
サクサクと、楽しく読める本なんだけど、全体の構図をどこまで信用していいのか。近代的で、非常にスマートなモンゴル帝国像を提示してくるのだが、逆にどこまで信用していいのやら。
「ハイブリッドな人間集団」を強調するが、ゆるい人間ネットワークというのは、遊牧民社会ではよく見るような。普通の遊牧民集団がここまでの大成功をおさめたことが、時代の空気とか、運というモノなのだろうか。
通商を重視し、そこからの上りを、帝国運営の原資にした。それにしても、「企業家集団」がやっていることは、権力とつながった国家的な商業だから、あまり「資本主義」を強調することもできないような。とはいえ、華南の商品生産力とその輸出に伴う富が帝国中枢に集められ、モンゴルの有力者に分配されている限りは、不安定な遊牧民国家にしても、広範囲の支持を確保できたと。それだけの、巨大集金システムを作り上げたところに、クビライの「建設者」としての、凄みがあると。実際のところ、どこまで意識的に組織つくりをやっていたのか。歴史的に言えば、だいたい、なんかものすごいものが出来上がっても、目の前の課題を片付けていった結果に過ぎなかったりするし。
モンゴル政治の特徴とされる宴会「トイ」にフォーカスすれば、もっと近視眼的に駆け引きし合うモンゴル政治といった歴史像が描けてしまいそうだけど。
ものすごい、かっこいいモンゴル帝国像で、好きなんですけどね、この本。たまに読み返したくなる。
授与された者たちは、自分たちの職任・特権・免役などを記した「特許状」を、好んで碑に刻した。できれば、なるべく大きくて立派な美石に、もとの文書のまま、そっくり刻そうとした。そして、それを人目につくところに建て、立石のその日には派手なセレモニーを挙行して、自分や集団の権益を印象づけようとした。今でもそうした碑刻が、中華本土だけでなく、モンゴル高原、中央アジア、はてはイランにも残る。刻された文字も、漢字、ウイグル文字、パスパ文字、アラビア文字、ティベット文字、シリア文字など、さまざまである。モンゴル時代は、いわば特許状の時代であり、碑刻の時代でもあった。p.195
大汗が発行する勅令「ジャルリク」が様々な法的権利の源泉となり、盛んに石碑が作られたと。すると、アジア各地の碑文を収集して、この時代の法制史や政治史の研究に使えそうな。