樋上昇『樹木と暮らす古代人:木製品が語る弥生・古墳時代』

 恐ろしく時間がかかってしまった。他の本にどんどん抜かされて、気がつけば一月ほどかかっていたような。どうも、考古学の編年という方法論が、文章で読むと、なかなか分かりにくい感じで。あと、実測図で木製品が紹介されるのだが、素人にはいまいちピンと来ないというか。
 「森に生きる」「鍬は語る」「首長と王の所有物」「うつりゆく木製品」の四部構成。最初が、木製品の供給問題。次が鍬の形式から誰が作っていたか、人の移動など。三番目は細工の細かい精製木製品の構成から権力のあり方の変化を追う。最後はまとめ。いろいろな情報が引き出せるのだな。


 「森に生きる」は、集落の木材供給について。出土した木製品やその原料木の構成から、どのように木材を利用していたかを明らかにする。建材や燃料となる木材は近隣の丘陵から調達していた。人間が利用する樹種メインの里山となっていたこと。そのために、広大な光背エリアが必要であったと。
 一方で、農耕に使う鍬は、強度が必要なため、アカガシ亜属の大径木が必要であったが、そのような特別な材料に関しては、平地の集落は外部からの供給を受けていた。それも、原材料そのもの、あるいは半製品と、供給のスタイルにバリエーションがあったことが紹介される。
 あとは、水漬け保管が、樹液を水に置き換える効果と同時に、石器で加工する時代には、乾燥して固くならないようにするという意味があったと。


 「鍬は語る」は、鍬の遺物の検討から、分かること。刃先に鉄の歯をつけるようになるのは、古墳時代から。それまでは、全部木製だったそうな。耕すにしても、なかなか、力加減とか、ちょっと固いものにぶつかったら折れるとか、大変そうだ。
 サイズと歯の角度の計測から、弥生時代中期までは、バラツキが大きい。使用者が最終仕上げを行い、自分が使いやすいようにカスタマイズしていたこと。それに対し、後期以降は、既製品が流通するようになった。
 あるいは、各種の地域型の鍬の、伝播と形態変化。このあたり、形式がたくさん出てきて、覚え切れない。最終的には、鉄製の刃が輸入されるようになって、それに適した形に収斂していくと。農耕具である直柄鍬は、稲作の伝播にともなって、拡散。一方、曲柄鍬は土木具であったと。土木技術と技術者の移動にともなって、複雑に伝播していると。逆に、人の移動を照射するか。


 「首長と王の所有物」は、集落の祭祀や首長・王の所持品であった、高度な加工が施された精製木製品の組成から、首長から王への変遷を指摘する。「みせびらかす器」と「隠匿する器」か。儀式を成員とともに行う首長段階では、見せびらかす器が重要。それに対し、「王」になると、所有物を隠す動きが出てくると。ただ、こういう顕示的な道具は、「王」になっても必要だと思うが。あとは、木製高杯の贈与で、遠隔地の首長同士の紐帯を維持する話も興味深い。
 後半の儀杖の話はパス。


 最後は、まとめ的な話。精製木製品のセット構成の変化から、儀礼や祭祀をつかさどる人物から古墳時代中期以降は武人への変遷がみられると。
 あるいは、鉄製工具の話。
 集落の木製品生産の場の変遷も興味深い。弥生時代中期には、儀礼や有力者の居住地が集落の中心部にあるのに対し、徐々に儀礼の場が集落の外部に移動していく。また、有力者の居住地も分離。弥生時代終末期以降は、「集落群」という形になり、それと同時に専門工人が出現すると。