谷甲州『航空宇宙軍史・完全版2:火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー』

 二冊目。第一次外惑星動乱の過程を、それぞれの戦場に立つ人々の目から描き出す。個人的には、この二冊、一番好き。
 外惑星連合軍による開戦劈頭の奇襲と地球圏への重水素供給遮断。航空宇宙軍による反撃。旧式艦による陽動の影で、前後方トロヤ群に主力を進出。さらに、一気に土星圏に進出し、タイタンを降伏させ、連合の中核木星系のガニメデ・カリストを孤立。
 早期決着を目指した航空宇宙軍の作戦は、正規巡洋艦サラマンダーの投入と輸送船団の壊滅で頓挫。航空宇宙軍の正規フリゲートと互角に戦える巡洋艦の出現に、航空宇宙軍は全力を持って追撃する。十一篇の収録短編中、4篇を占める、サラマンダーの存在の大きさ。
 そして、最後の2篇は、終戦にいたる動き。外惑星連合側は、最後の一撃でダメージを与え、和平交渉を有利にしようと図るが、航空宇宙軍側は予想を上回る戦力を投入。さらに、カリストでクーデターと。このあたりのイメージソースは、大戦末期の日本軍だな。
 イオのネメシス計画を巡るイオとガニメデ・カリスト側の対立。観測基地内での暗闘。エグい。


 宇宙戦争を真面目に描こうとすると、四次元的な構造を表現しなければいけないから、難しそうだな。拠点も、艦艇も、移動するし、接敵と戦闘までに時間がかかる。