高橋慶史『ラスト・オブ・カンプフグルッペ 4』

ラスト・オブ・カンプフグルッペIV

ラスト・オブ・カンプフグルッペIV

 買おう買おうと思いつつ、値段が値段なので手が出ずにいたら、図書館に入ってた。4300円は、ちょっときつい。大日本絵画に販売力がないのかなあ。あそこの本、どれも高いよなあ。
 今回は、末期に急増された戦車師団のお話やチェコスロヴァキアの蜂起の話がメイン。しかしまあ、特に、東欧のスラブ系義勇兵部隊の末路の悲惨なこと悲惨なこと。コサックとか、ソ連にジェノサイドを受けたようなものだよなあ。その後継国家のロシアが「コサックの伝統」とか言い出すのは、もうね…
 第1章のアンツィオ・アニーのお話や第9章の高射砲艦が興味深い。
 あと、第2章は連合軍側、ディエップ上陸作戦を両方の側から描いている。


 第1章「午後4時の恐怖」は、アンツィオ橋頭堡で連合軍を苦しめ、アンツィオ・アニーとあだ名された二門の28cmK5列車砲の話。名前は有名だけど、意外と具体的な話は紹介されないだけに、貴重。実戦部隊を狙うより、補給拠点なんかを攻撃していた感じなのかな。
 他にもフランス製の鹵獲24センチ列車砲を使った部隊が展開してたという話や、連合軍側の交通路爆撃によって線路が損傷し、巨体の列車砲は、進出も撤退も難しかったことなど。


 第2章は、ディエップ上陸作戦の話。こういうのがあると、沿岸防備にかなりの戦力を割かなくてはならないわけだ。しかし、上陸部隊のやられっぷりが。遮蔽物のない場所で、一方的に撃たれる。しかも、後の上陸作戦と違って、海軍による艦砲射撃の支援もないわけだから、そりゃ、ほとんど壊滅状態になるのも、当然だよなとしか。
 玉砂利の海岸で、かなりの数のチャーチル戦車が履帯を損傷して動けなくなっている。戦車も、地形によっては、それほど動けないのだなあ。


 第3章「ポンメルンの奇蹟」は、戦車師団ホルシュタイン」の話。まあ、主人公はフォン・テッタウのような感じも。現在のドイツとポーランドの国境シュテッティンの東側で行われたポンメルンの戦闘について。つーか、中世のハンザ都市であるシュテッティン、今はドイツ人はいないんだよな…
 1945年の1月になってから編成された、最末期の戦車師団戦車師団といっても、戦車は一個大隊。40両くらいしかなくて、事実上、装甲擲弾兵師団って感じだけど。
 ソ連軍の突破で包囲された部隊が、なんとか、突破して、収容されるまで。本当に末期戦感が強いなあ。よくもまあ、最後まで秩序を保ったものだ。


 第4章「ラスト・オブ・コサック」は、タイトルの通り、コサック部隊のお話。
 そもそも、ソ連に弾圧されまくっていたコサックが、ドイツ側と通じて、自己の維持を図ろうとするのは当然だよなあ。しかし、そのドイツがボロ負けして、民族ごと消滅の道をたどる。
 あとは、一代の冒険野郎。ほとんど大陸浪人みたいなフォン・パンヴィッツとか。騎兵部隊だと、やはり貴族出身者が多い感じだな。フォン・なにがし系の。
 勇戦ぶりよりも、どうしても、最後のイメージが焼きつくな。西側に降伏しても、結局、ソ連に引き渡されたのか。しかも、ソ連は、殺す気満々だし…


 第5章「空軍地上師団ついに逃げ勝つ」は、ギリシャに配備され、最終的にはオーストリアまで、全滅せずに撤退に成功した第11空軍地上師団について。空軍地上師団で全滅してないのは、全部で21個編成されたうち、4個師団のみという。
 ギリシャで治安維持活動に従事していたが、ルーマニアの政変と連合軍側での参戦によって、バルカン半島から総撤退。ブルガリア軍やソ連軍、チトー・パルチザンと戦いながら、ギリシアユーゴスラビアを縦断。なんとか、オーストリアで、イギリス軍に降伏成功。
 この、バルカンからの大撤退作戦もすごい話だよなあ…


 第6章「スロヴァキア蜂起」。ドイツの敗勢の中、スロヴァキア軍の反ドイツ勢力は、着々と蜂起の準備を整えていた。蜂起のうえでソ連軍を引き入れる予定だったのだが、パルチザン活動の拡大によって、予定よりも早く軍事行動を起こす破目に。しかし、準備不足のなかで、ドイツ軍の鎮圧部隊の攻撃に晒される。この時期になると、ドイツ軍部隊も、もう、補充部隊から泥縄指揮に雑多な戦闘団を編成して、送り込むのが精一杯の状況。両者とも、微妙な戦力で、2ヶ月の戦いを繰り広げることになる。
 スロヴァキア中部の渓谷と山地が錯綜する地形が、「チェコスロヴァキア第一軍」の善戦を可能としたのだろう。
 旧式のドイツ戦車がぞろぞろ出てくるのも印象的。短砲身四号戦車とか、38t戦車とか。


 第7章「プラハ蜂起」。もう、戦争も押し詰まった1945年の4月末から5月初頭のエピソード。ちょうど、米ソ両軍の狭間みたいなところだったわけだ。最後の武装SS師団未満の緊急展開部隊「ヴァレンシュタイン」や、プラハ制圧に投入された雑多な部隊。そして、敗勢のドイツを見限って、チェコの蜂起軍に合流し、生き残りを図ったロシア解放軍/第一ロシア歩兵師団の姿。
 極末期の混乱状態の中で、鎮圧部隊と第一ロシア歩兵師団の混戦。ドイツ軍側も、民間人の安全を確保するために必死だった、と。そして、ソ連軍が迫る中、チェコ側から見離され、ドイツ軍と同じ方向に敗走する第一ロシア歩兵師団の末路が、泣ける。
 つーか、ドイツ側に下ったロシア人兵士って、70万人も居たのか。そして、大半が、戦後消されたのだろうなあ。寒気がする…


 第8章「第三帝国最後の戦車師団出撃す!」は、敗戦の一月前に編成された、ナチス・ドイツ最後の戦車師団クラウゼヴィッツ」の話。
 つーか、この期に及んで攻勢に出ようとするドイツ軍上層部の壊れっぷりが。戦車・突撃砲が80両、装甲車もいて、砲兵もいる部隊なんだから、防衛作戦に使えば、それなりの活躍を示したのではなかろうか。ハンブルクからハノーファーあたりの話。
 まあ、編成途中の部隊を逐次投入した形で戦場に消えていったわけだが。つーか、命令どおり攻勢に出て、目的の線まで進出には成功しているんだよな。まあ、最後は残骸みたいなものだったようだが。
 末期戦の混乱の中で、戦果が誇張されているような感じがするなあ。イギリス側からみた、この戦いは、どんな感じだったんだろうか…


 第9章、ラストは「老骨に鞭打つ」ということで、鹵獲した北欧諸国の艦船に高射砲を積みまくって、拠点港湾の浮き砲台とした高射砲艦のお話。20世紀初頭から、下手すると19世紀末の艦船、ノルウェーやオランダ、デンマーク海防戦艦やオランダやドイツ自身の防護巡洋艦武装を撤去して、高射砲を積みまくる。まあ、旧式を通り越して、骨董品の艦船のリサイクルとしては、アリなのかなあ。停泊して、高射砲撃ちまくるだけだし。それなりの大きさがあれば、なんだっていい感じはするな。
 しかし、20世紀頭の海防戦艦って、第二次世界大戦目線でみると、本当に戦闘力ないなあ。普通に駆逐艦に負けそう。というか、実際に、負けているし。20センチ級の主砲、2-3門って、よっぽど近づかないと当たりそうにない。魚雷にアウトレンジされそう。16ノットってのは、商船を追っかけるのが関の山だしなあ。