古峰文三『「砲兵」から見た世界大戦:機動戦は戦いを変えたか』

「砲兵」から見た世界大戦: ――機動戦は戦いを変えたか (WW2セレクト)

「砲兵」から見た世界大戦: ――機動戦は戦いを変えたか (WW2セレクト)

 電子書籍で読みたくないので、紙版購入。1000円高くなるのはきついなあ。これ、ISBNは付与されていないんだ。


 なんか、感想を書きにくくて、読み終わってからずいぶんたってしまった。
 砲兵や航空戦という観点から見ると、現場の指揮の妙よりも、火力や航空戦力の維持といった割と静的な戦争といった感じに見えてくる。とはいえ、兵力や作戦意図の秘匿、作戦開始の直前の脆弱さを狙う対砲兵戦とか、駆け引きの要素は強いけど。
 戦い全体を見渡せる立場の人が少ないのも、砲兵の観点からの戦記が少ない理由だろうな。重い大砲を運んで、今度は重い砲弾をひたすら運んで、他所からの指示でぶっ放すわけだから、一般の砲兵の戦記はつまらなそう。前線の火力統制を行う指揮官なら、おもしろいのかな。


 全体としては、第一次世界大戦の火力戦ドクトリンの試行錯誤、戦間期のドクトリンの衰退、そして第二次世界大戦中、ドイツの機動戦ドクトリンに対する英ソ米の火力戦ドクトリンの再発見の流れ。基本的には、ブログ「いろいろクドい話」に連載された記事の再構成。本書の刊行にともなって、削除されているけど。


 間接射撃が、日露戦争あたりを嚆矢とする、新しい技術であったというのが興味深い。第一次世界大戦は、機関銃によって飛躍的に火力を増した歩兵と縦深防御陣地に対して、どのように砲兵の火力を発揮するか、試行錯誤の過程が第一次世界大戦の流れ。そして、ブルフミュラーによる縦深制圧の実現で一つの頂点に達する。また、これに対抗するために、精緻な対砲兵戦の情報収集組織が形成されるようになる。


 しかし、戦間期に、このような第一次世界大戦の達成は、一気に忘れ去られてしまう。巨大な組織と資材を維持できなかったこと。そして、砲兵が、第一次世界大戦の悲惨な戦いの象徴とされてしまい、解体の対象とされてしまった。結果、野砲の小型化、砲弾生産能力の縮小などの事態が発生。


 第二次世界大戦では、ドイツの電撃戦ドクトリンの前に、連合国側は、火力戦ドクトリンへの転換が試みられる。イギリスは、組織の再建に二年かかり、アメリカはもっと遅くなる。フランス戦に先立つ、フォニーウォーは、弾薬や兵器の損耗を補うドイツ軍と火力戦へと転換する英仏軍の、競争だったのか。
 イギリスにおける、前線の火力統制指揮官に老練な佐官クラスの軍人を当てる属人的な方法。一方、アメリカでは情報集約組織を作って、そこに情報を集約する。臨機応変に運用できるのは前者ではあるだろうな。組織改革によって、火力の集中が行われるようになり、エルアラメインの勝利につながる。
 アメリカは、第一次世界大戦の戦訓を学び損ね、火砲の生産は、ソ連と比べると圧倒的に劣っていた。また、軍団レベルの火力集中は、できていなかった。一方で、航空戦力を火力に利用して、ドイツに対する優位に立った。イタリアでの、徹底的に砲兵をぶっ潰す破壊主義が、兵員の損害を減らすために、どうしても必要だった。
 アメリカの、戦闘団ごとの砲兵部隊分割って、現在も行われているけど、火力の集中はどのように行われているのだろうか。


 ソ連の、戦前からの一貫した火力戦ドクトリンが興味深い。独ソ戦末期に大量の火砲が投入されたのは、それで縦深を徹底的にぶっ潰すドクトリンが存在したからこそ、実現されたもの。ソ連の特徴は、砲兵の都合に合わせて、全軍が動く、砲兵の地位の高さ。また、砲撃の衝撃による無力化ではなく、縦深の全体を破壊する「破壊主義」もドクトリン上の特徴。そのために、重厚な情報収集組織を構築してた。


 ドイツは、機動戦ドクトリンで、独ソ戦では、砲兵を徹底的に解体して機甲部隊につけて、火力の機動性を実現しようとした。しかし、結局、砲兵は脱落していって、モスクワでは火力援護のないまま、戦車が撃破されて、敗北。そこから、ドイツも火力戦に転換。第18砲兵師団やアルデンヌの国民砲兵軍団などの事例が紹介される。しかし、結局、孤立事例や弾薬の集積推進の困難などの事情で、全面的に運用はできなかった。


 戦車は、単独では、砲兵に撃破される脆弱な存在。これは、戦車が最初に出現した時点からの宿命。常に、矛の方が優っている、と。現在でも、その構図は変わらないなあ。シリアで、トルコ軍のレオパルド2が多数撃破された事例にように、諸兵科による援護がなければ、第三世代戦車も対戦車火器にやられてしまう。
 あと、突撃砲も、戦車も、大戦後半になると役割が変わらなくなってしまう。単独運用ではなく、直接射撃による火力援護がメインになる。アメリカの歩兵師団に派遣された戦車大隊などは、用法としては、まるっきり突撃砲
 また、突撃砲に関しては、むしろソ連が、ドイツのお株を奪って、強力な突撃砲を大量に投入しているという指摘も興味深い。