『ミリタリー・クラシックス』Vol.72

 今号の特集は、M4シャーマン戦車と「最後の連合艦隊旗艦」軽巡大淀。

M4シャーマン中戦車

 第一特集は、アメリカの主力中戦車たるM4シャーマン。いろいろな型式番号と細部があって理解不能な沼だけど、多少は整理されて見える、かな。改めてまとめようとすると、なかなか難しい感じがする。
 しかし、シャーマンって、30トン級とけっこうデカいのだな。そして、なんか四号戦車と略同等感がつきまとう。比較的短砲身の75ミリ砲から長砲身の76ミリ砲に載せ替えたあたりも、似た感じがある。さすがに、20トン級の四号戦車と比べて一回り大きいだけに、砲身長もかなり長いし、最後にはパンター級の17ポンド砲や戦後は105ミリ砲まで積んでる拡張性は大きいが。
 あと、アメリカ軍の組織として、この戦車しか使わんぞという強い意志。なんだかんだ言って、戦車に使うリソースが限られていたのかねえ。シャーマン戦車にしても、いろいろと無理矢理感があるし。


 シャーマンの型番はエンジンで決まる。それに溶接・鋳造のどちらかの車体が充当される、と。溶接車体に空冷星形エンジンが無印M4、鋳造車体に空冷星形がA1、溶接車体にデュアルディーゼルのA2、溶接車体にフォードのV8エンジンがA3、溶接車体にクライスラーのマルチバンクエンジンでA4、ハイブリッド車体に空冷星形ディーゼルでA6。これに40口径75ミリ砲と52口径76ミリ砲の武装の違い、懸架装置がVHSS(垂直渦巻バネ)かHVSS(水平渦巻バネ)か、弾庫が乾式か湿式か、追加装甲があるかないかなどで分けられる。ちょっと、知識が整理された感じかなあ。
 A6以外は、何千両も作られているのがすごい。しかも、戦車用に適当なエンジンがなくて、航空機用の空冷星形ガソリンエンジンをデチューンしたり、トラック用ディーゼルエンジンを二つ連結とか、乗用車用の6気筒エンジンを五個つないだマルチバンクエンジンとか、他の国がやったら信頼性が悲惨なことになりそうなのに、他国でも好評ってあたりが大量生産先進国だなあ。あとは、大戦後半には、二つの戦車専用工場に生産が集中していく状況とか、大戦前半には機関車工場がメインだった状況なども興味深い。


 M4中戦車にいたる歴史や戦歴もおもしろい。そもそも、アメリカも、大戦間期には架橋資材の制限で15トンに制限されていた。また、その後も、船舶輸送の制限から35トンという重量制限に苦しめられた。大戦間期には、軍備予算が削られて、大規模な戦車の整備は不可能だったが、それでも、中戦車の試作や限定的な整備は続けられ、T4、T5戦車からM2中戦車と開発。ここで足回りや空冷星形ガソリンエンジンの搭載、M3に繋がるケースメイト式の75ミリ砲装備などの経験が積まれ、M4まで影響している。また、ストップギャップとして作られたM3の独特な形は、対戦車砲としての37ミリ砲への信頼や歩兵支援戦車として歩兵部隊からの指示を受けやすいという性格もあったという。結局、M4中戦車が「成功」したので、M3用に準備されていた資材や生産設備が転用されて、M4が大量に生産されていくことになった。
 M4戦車は、コンセプトとしては歩兵支援と突破後の機動戦両用に使われると想定され、対戦車戦闘はあまり重視されない性格の戦車だった。結果として、機甲師団に集中配備される戦車部隊と、歩兵師団に分遣されるGHQ戦車大隊の二種類が存在することになった。で、アメリカ軍の戦線のどこにでも表れる存在になり、歩兵師団への大きな脅威になった。また、ソ連のM4戦車への評価も興味深い。決戦用の精鋭機動戦部隊である親衛機械化軍団が、ベルリン攻略に備えて、シャーマン戦車に改変されているように、機動戦用戦車としては、T34-85戦車に勝る評価を得ていた。砲弾の品質の差も影響したようだ。


 戦歴も印象深い。緒戦のカセリーヌ峠での戦車集中配備による機動戦が、ドイツ軍に完膚なきまで叩き潰される。その後、ノルマンディーからバルジの戦いに至る苦しい戦いの中で、諸兵科連合による対抗で、性能に勝るパンター戦車と互角に戦えるようになる。東部戦線のような平原じゃないのも、シャーマン戦車に利したようにも思えるが、そういう所だと、今度は空軍が吹っ飛ばすだろうしなあ。
 太平洋戦線では、圧倒的に弱体な九七式戦車しか存在しなかったが、歩兵にも成形炸薬弾を発射する小銃擲弾「タテ器」や側面を狙う擬装された速射砲に苦しんだ。軽戦車ではもはや役に立たず、中戦車が、それでも苦戦する状況だった。また、支援砲撃による穴にはまって擱座するなどの運用の習得も必要だった。フィリピンのM4対九七式の戦いが悲惨だなあ。榴弾を打ち込まれたら一撃だったけど、経験の浅い部隊だったから徹甲弾が突き抜けて、「善戦」できたとか、泣ける。
 そして、第二次世界大戦後も、朝鮮戦争ではアンダーパワーのM26よりも、軽量でその分山地で扱いやすいM4のほうが評判が良かった。そりゃ、同じエンジンではねえ。あるいは、砲を更新して運用されたイスラエルのM4シリーズ。光学照準器の優位で、スペック的に優れたソ連戦車を圧倒した。一方で、第四次中東戦争対戦車ミサイルでは、どのような被害を被ったか、情報が開示されていないという…

軽巡洋艦大淀

 第二特集は、一隻のみ建造された軽巡洋艦「大淀」。艦隊漸減作戦の際に、潜水艦部隊の旗艦として、前方に単独進出し、航空機と通信装置で潜水艦の目となるべく構想されたが、後半になるとそのような運用はまったく不可能で、浮いてしまった。最初は輸送任務に従事。高速で、容積に余裕があるとなると、そう使われるよね。他国の敷設巡洋艦あたりと同じ感じだ。
 その後、連合艦隊の旗艦として、格納庫部分を執務スペースとして回想。連合艦隊の旗艦になり、マリアナ沖海戦では、全体の指揮をとった。しかし、その後、戦力が低下し、基地航空隊も指揮下に組み込む中で、陸上に総司令部を置いた方が良いと、連合艦隊司令部は陸上に上がり、半年程度で旗艦任務を解かれることになった。
 その後、レイテ沖海戦では、囮の空母部隊の護衛に付けられ、空母が全滅する中、軽度の損傷で乗り切ることに成功する。その後、フィリピンでの礼号作戦の殴り込み、本土への戦略物資を輸送する北号作戦に従事、最後は呉港で動けないまま、米軍の爆撃で大破着底で終戦を迎える。北号作戦の神がかった幸運ぶりがすごいな。
 8000トンと比較的大型の船体で、なかなか素性の良い船だったようだ。つーか、もっと小さいと思っていたけど、けっこう大きかったんだな。あとは、大きな格納庫が特徴か。あれには、4機の紫雲と格納する予定だった、と。長大なカタパルトも印象的。


 しかし、結局、艦隊決戦用の重巡が重視されて、5500トン級軽巡の後は長いブランクがあって、新世代は阿賀野型、大淀と出遅れた感じなのがきついなあ。

有馬桓次郎「ミリタリー人物列伝」

 イギリスのエイドリアン・ウィアードを紹介。つーか、戦闘狂すぎるだろ。第二次ボーア戦争第一次世界大戦と、鉄火場を嬉々として突撃。負傷しても、また出てくる。それで片目、片腕を失うって、なんというか。第二次世界大戦でも、司令官として出陣。その後は軍事顧問として重用。ベルギー貴族出身で、外交顧問かつ軍事知識もあるという存在が貴重だったのかな。単なる突撃バカではなかったって事なんだよね…

白石光「特殊作戦行動」

 今回は、ブランデンブルク部隊が遂行した、オランダの橋梁奪取作戦「モルゲンローテ」作戦。電撃戦冒頭、重要な橋を、爆破させずに確保するのが目的で、4つの橋をすべて確保に成功している。大成功だな。

すずきあきら「WWⅠ兵器名鑑」

 今回は各国の機関銃。マキシム機関銃とオチキス機関銃の時点で、リコイル方式とガス圧方式の両方が出そろっていた。日本はマキシム機関銃をコピーできず、結局、オチキス機関銃のライセンスを入手したとか。
 ロシアのPM M1910、ベルギーやイギリスのルイス機関銃、フランスのオチキスMle1914、イギリスのヴィッカーズ・ガン、イタリアのファイアット・レベリM1914、アメリカのブローニングM1917、ドイツのMG08。どれも、採用から数年の最新兵器だったのだな。

吉川和篤「Benvenuti!知られざるイタリア将兵録」

 M41 90/53対戦車自走砲の戦歴。弾薬を搭載していないというのが、普通に欠点だよなあ。シチリアに送られた3個大隊は、それなりに活躍するが、足回りの脆弱さや数が揃わなかったことで、それほど目だたないまま終わってしまった。
 砲の威力は90ミリ対空砲だから、必要十分な物だったわけだし、シチリアではそれなりの活躍を見せているようだけど…

松田孝宏「奮闘の航跡:この一艦」

 神風型駆逐艦「春風」をピックアップ。船団護衛に走り回った旧式駆逐艦だが、潜水艦撃沈の成果もあり、と。機雷を食らって艦首を失ったり、雷撃で大破してそのまま終戦。最後は防波堤に。
 その後、最初の国産護衛艦の艦名に受け継がれ、こちらも長らく働いた、と。

野原茂「蒼天録」

 大戦末期、連合軍の攻撃にさらされるボルネオ島の守備隊に、医薬品を届ける挺身飛行を行った中西上飛曹のエピソード。ジャワから、敵中を突破…
 なんだかんだ言って、水上戦闘機たる強風だからこそというのはありそうだけど、薄暮に単座機で河川に着陸って、操縦・航法両面ですごいなあ。

田村尚也「萌えよ!戦車学校:WWⅡ名戦車入門」

 アメリカのM3/M5軽戦車を紹介。その前史たる各種試作戦車も。第一特集を補完する内容だな。つーか、アメリカ軍、機関銃を一杯積んだ戦車好きだなあ。