『ミリタリー・クラシックス』Vol.70

 今回の特集は、前半が改装空母瑞鳳、祥鳳、龍鳳。後半がイタリア戦闘機マッキMC200シリーズ。


 第一特集は、空母予備艦として、空母向け艤装を完備した状態で建造された補助艦艇3隻から改装された軽空母三隻について。ここいらの、元軍艦出自の軽空母は、それなりの速力が出せるために、地味ながらも艦隊空母として活躍できた、と。
 軍縮条約で小型空母も制限された日本海軍は、1万トンクラスの大型の特務艦に、あらかじめエレベータや格納庫などの空母に必要な設備を搭載し、有事には短期間で空母に改装できる「空母予備艦」を構想。軍縮条約下で合法的に、空母戦力の拡張を行える工夫を行った。
 このために、潜水母艦大鯨、高速給油艦剣埼、高崎が計画された。しかし、急速建造のために、溶接を多用するブロック建造とディーゼル機関を搭載した大鯨は、溶接技術の未熟による船体の歪みや強度不足、主機関の不調に苦しめられることになる。このため、大鯨→龍鳳への改造は後回しになったり、レイテ沖海戦の囮作戦不参加で戦後まで生き残ることに。
 一方、剣埼・高崎は、ほぼ太平洋戦争発生時に間に合わせる形で空母として就役。祥鳳は、初陣の珊瑚海海戦で集中的に攻撃を受けて、半年も経たずに喪失。一方、瑞鳳は、ミッドウェー海戦、南太平洋海戦、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦と主要な海戦に参加。最終的に、レイテ沖海戦の囮部隊として出撃、撃沈される。
 三者三様の艦歴をたどっている。あとは、搭載航空隊を基地航空隊に召し上げられたとか、航空機やその他の輸送作戦に従事したとか。商船改装空母と同様の任務にも従事しているのだな。
 軍縮条約の離脱から、空母予備艦は、結局、この3隻で打ち切りになった。最初から蒸気タービン機関を搭載していれば、もっと早く空母になったんだろうなあ。あと、この種の空母の運用で試行錯誤した感じも興味深い。主力部隊の防空戦力とか、空母部隊の防空などが構想されたが、最終的には空母に余裕がなくて、主力艦同様の運用が行われた、と。


 第二特集は、イタリア戦闘機、マッキ社製のMC200、202、205V戦闘機。大戦中のイタリア軍の事実上の主力戦闘機を務めたシリーズについて。個人的には、イタリアの空冷エンジン戦闘機、わりと好き。
 第二次世界大戦イタリアの強みも弱みも反映した機体だったんだな。
 イタリア単葉戦闘機三羽ガラス、MC200、G50、Re2000は、みな、空冷エンジンを積んでいるが、これは馬力重量比で有利と国策で一律導入された、航空行政の産物であった。しかし、この政策は、新型エンジン開発投資の減退、補機や燃料の技術不足によってライセンス元から相当見劣りする性能などの弊害をもたらした。
 また、レシプロ水上機の最高記録を出したMC.72を設計したマリオ・カストルディの技術によって、小型高速機としては正統派、1200馬力弱のエンジンで時速600キロを達成した素性のよい飛行機ではあった。が、航続距離や武装強化など、第二次世界大戦で要求された兵器としての機能を達成できなかった。第二次世界大戦では、しゃにむに大量生産が求められる戦争だったが、そこでも量産性の低い設計と小規模なイタリア航空機産業のため、思うに任せなかった。
 主翼は、リブを高密度に並べることで、軽量化と剛性を両立させ、小面積の主翼で高速を発揮可能にさせた。しかし、多数のリブを並べる方式は、組み立ての工数がかかる量産性に欠ける構造であった。さらに、主翼内部に空間が確保できず、ここに燃料タンクや機関砲を設置できず、武装強化や航続力増強の妨げになってしまった。結局、MC200シリーズは、205Vの後期型まで、武装が12.7ミリ機銃2門と、対戦闘機戦闘にも問題を来す弱武装のままであった。
 高速へのこだわりが、エンジン周りの冷却不足を生んでしまった、DB601/605液冷エンジンのライセンス生産の惨憺たる状況、マルタ島攻撃に集中できず拠点として残してしまったイタリア軍の失策、東部戦線の活躍なども興味深い。
 あとは、イタリアは航空機メーカーが小さく、それをバックアップする自動車産業も小規模だったため、単一の機種を大量生産するよりも、それぞれのメーカーに独自に生産させる方が、数を揃えるのに有利であったという生産事情。結果として、似たような性能の戦闘機がマッキ、ファイアット、レジアーネの三社で改良され続けたわけか。

有馬桓次郎「ミリタリー人物列伝」

 マッカーサーの腹心情報参謀だったチャールズ・ウィロビーを取り上げている。つーか、ここまで経歴や出自が怪しい人間が、登用されるのか。わりとドン引き。
 GHQで反共のウィロビーは、民政局と激しく争った。マッカーサーとともに軍を退役した後は、スペインのフランコの顧問をしたり、反共団体を作ったり。一生反共だったわけね。

本吉隆「海外から見た日本艦」

 今回は、特型駆逐艦について、どのように認識していたかという話。でかい分航洋性能や航続距離が高く、武装も強力、射撃指揮装置でスペック以上の能力と、同時代の駆逐艦にとっては圧倒的な脅威であり、その後も、凶悪な相手だった。一方で、大戦中期以降は、戦術や装備が改善され、強敵だけど、勝てる相手と認識されるようになっていった。

白石光「特殊作戦行動:63:『ヴァンダーファルケ』作戦」

 ポーランド侵攻の劈頭、鉄道施設や橋梁、工業施設の占拠を行ったエビングハウス戦闘団のエピソード。奇襲に成功すればともかく、まともに戦うと損害が大きい、と。

白石光「世界の軍用銃 in WW2」

 レイジング短機関銃。はじめて聞いたけど、トミーガンに対抗して、安くて軽いサブマシンガンの需要を狙ったもの。しかし、戦場での堅牢性や整備性が若干劣り、戦場では不具合が発生した。しかし、法執行機関や後方警備などでは、扱いやすい銃として、それなりに好評だった、と。

すずきあきら「WWⅠ兵器名鑑」

 今回は、ツェッペリン飛行船の前編。
 大戦序盤の活動。陸軍に納入された飛行船は、偵察や爆撃に従事するが、対空砲火でかなりの機材が撃破されている。一方、1915年5月31日の夜間ロンドン爆撃では、対空砲も戦闘機も届かない上空から、一方的に爆撃を成功。その後も、1915年中は、妨害を受けることなく、爆撃を成功させ続けた。
 昼間、高度800メートルだと、良い的でしかなかったわけか。

吉川和篤「Benvenuti!知られざるイタリア将兵録」

 三発大型水上機、カントZ506の活躍。最初は、航続力を活かした水上爆撃機として運用されたが、木製の脆弱な機体は、防御が整えられると損害ばかりがかさむようになった。その後は、哨戒機や救難機としての運用がメインに。救難機としては、1959年まで運用が続けられたのか。すごいな。

松田孝宏「奮闘の航跡:この一艦」

 今回は、英巡洋戦艦レナウン。高速で高火力の艦は、そりゃ、便利使いされるよなあ。大西洋と地中海を東奔西走。ビスマルクと交戦して撃沈されたフッド、マレー沖海戦で戦没したレパルスと異なり、終戦まで生き残った。
 個人的には、第二次世界大戦英戦艦の塔型艦橋は、どうにもデザインが微妙だと思う…

野原茂「蒼天録」

 四発大攻「連山」のお話。
 もはや、双発爆撃機では活躍できない状況で、敵重爆撃機基地を叩くために構想された連山。しかし、試作機が完成する頃には、資材不足で量産できず、作戦も特攻に集約していた。そこで、特攻機桜花の母機として、鋼製連山が構想されるが、こちらも、高張力鋼の入手難から中止された。実戦投入されても、迎撃機と防空システムの前には、活躍できなかっただろうという…

「歴史的兵器小解説」

 ノースロップYB-49のお話が印象深い。ノースロップ全翼機に対する50年越しの執着。それが、B2爆撃機に結実する、か。