渡辺洋二『必中への急降下:海軍爆撃機戦譜』

必中への急降下―海軍爆撃機戦譜 (文春文庫)

必中への急降下―海軍爆撃機戦譜 (文春文庫)

 タイトルの通り、日本海軍の急降下爆撃機ないし急降下爆撃が可能な戦闘用航空機、4機種の艦上爆撃機と陸上攻撃機「銀河」、対潜哨戒機「東海」について、短編を集めた本。
 急降下爆撃の始まりから複葉の九四式、九六式艦上爆撃機による日中戦争の実戦経験についての部分に章が割かれていて、興味深い。複葉艦爆の時代だけで、全体の半分程度。アメリカ軍で考えられ、それが日本に取り入れられた。まずは、戦闘機でテストしたあと、専用の爆撃機が開発された。それも、日本側で開発が難航したので、ハインケルに試作を発注。これを、日本軍で運用しやすいように改修したのが、九四式。あとは、あんまり角度を深くすると、かえって命中率が低下するとか。
 日中戦争では、華中から華南方面は海軍航空隊の担当で、航空撃滅戦や阻止攻撃を担当。母艦航空隊は、機動力を駆使して華南方面の作戦を数度にわたって行っている。
 低空まで降下して、引き起こしで動きが遅くなる急降下爆撃は、対空砲火の損害が多い。本当に危険な任務なんだな。


 前に読んだときは知識がなかったけど、86ページからの数ページの記述が、『歴史群像』の2018/2号で紹介されている、当時「世界最先端レベル」だった日本軍の近接航空支援なわけか。飛行隊長の少佐が、陸軍の師団司令部に派遣され、直通電話で連絡体制を構築している。
 戦訓も興味深いな。二連空司令部の見解には、何よりも制空権が大事とか、搭載量と被弾の危険から陸戦強力には艦攻の方が良い。また、十三空では、機種の使い分けの必要性なんかが指摘されている。


 後半は、九九艦爆と彗星、銀河、東海について。
 インド洋作戦を描いた「不均衡なる彼我」、戦争を生き延びた艦爆隊の士官へのインタビュー記事「艦爆隊指揮官は語る」、彗星を取り上げた「敵艦隊への最後の攻撃」、「夜襲隊、沖縄へ飛ぶ」の4編が、艦上爆撃機について。
 インド洋作戦は、本当に後の敗北を暗示する問題が噴出しているよなあ。それを勝ち戦が隠してしまった。しかし、ものの役に立ったようにも思えないフェアリー・フルマー相手でも、やはり艦爆は負けるのか。普通に、九九式艦爆の方が優速みたいだけど。
 「艦爆隊指揮官は語る」では、二人の艦爆隊指揮官の話が紹介される。やはり、マリアナでは、練度不足は大きかった。特に、隼鷹の彗星隊は、発艦ができず、かなりのブランクができてしまったとか。あとは、空母対空母の戦いで、艦爆の損害がめちゃくちゃ大きいとか。
 彗星2題は、大戦末期の姿。前者は、本当に最末期の艦隊攻撃。バラバラに飛んで、単機で厳重に防護された空母に攻撃をかけても、戦果は望めなさそうだなあ。むしろ、駆逐艦でも地道に食うべきだったんじゃないかねえ。芙蓉部隊も、どの程度戦果を上げていたのか。目標発見能力の低さが、末期日本軍のネックになっている感が強いなあ。


 ラストは、双発機のエピソード。
 銀河を取り扱った「ガンシップ「銀河」の一撃」は、対地攻撃用の下方斜め銃によって、実際に行われた対地攻撃の話。攻撃第401飛行隊がルソン島リンガエン周辺の空港の攻撃に使用し、ダグパン飛行場への銃撃を決行している。破壊力が大きい爆撃の方が、結局、選択されたと。
 東海については、全般的なお話。対潜哨戒機でも、スピードは重要だったようだ。つーか、結局、潜水艦の撃沈には成功していないんだよなあ。せっかく、専用の対潜哨戒機を作ったのに。まあ、飛行機が飛び回っているだけで、潜水艦を潜没させ、機動力を減殺することができるわけだが。