笹木さくま『不殺の不死王の済世記』

 とりあえず、銀髪少女、いいですね。


 かつて、大陸の統一による平和を目指し、苛烈に戦い、「殺戮王」と呼ばれた男。彼は、部下の手にかかり斃れる。しかし、意地悪な神と取引した(?)のか、不死者としてよみがえり、改めて、平和を目指し、戦いを始める。今度は誰も殺さないと決意して。
 辺境のエリュトロン王国で、緑腐病で滅びかけた村に遭遇した彼は、生き残った子供達を救い、クリオ村を拠点として、改めての征服戦争を開始する。
 不死者となった今、時間を気にせずに、ゆっくりと活動を行えるはずだった。しかし、エリュトロン王国の王位継承争い、そして、それを煽った隣国からの介入によって、すぐにエリュトロン王国の政治を担うはめになる。


 主人公が、魔法の才能こそあるが、外の世界を知らない村娘というのが、読者への設定の説明を自然に行えるようになっているな。「世界の根源」と直結してしまう魔法使いは、自我をしっかりと維持しないといけない、むしろ不安定な存在。あと、お供のしゃべる黒猫、黒幕というか、混乱を臨む類いの神様なんだろうなあ。
 急に出現した、消滅したはずの疫病、緑腐病は、王位を奪わんとする宰相によって人為的にばらまかれたモノだった。テリオスは、それをあっさりと覆してしまう。
 そして、村を滅ぼされた主人公ミラは、復讐を臨み、テリオスは生命を奪わず、宰相を社会から抹殺する。復讐としては、容姿を変貌させ、呪いで自分の正体をしゃべれなくし、宰相の姿をしたゴーレムを処刑することで、完全に社会から抹殺するという、殺すよりも残酷な処分で完遂されている。しかし、これ、テリオスが誰も殺さないと誓った理由と矛盾するのではないだろうか。殺した相手の敵意を買うから、次は殺さないと決意したのに、これでは宰相の親族にとっては、事実上殺したも同然なわけで。


 しかし、肉体労働をゴーレムに任せ、資源争いを根絶することで平和を構築する構想、現実的に考えるとおそらく無理だろうなあ。衣食足りたら、人間はおそらく名誉や地位をめぐって争い出すだろうなあ。
 あと、人間が死ぬということは、暴走した政権がいつか終わることを保障するものでもあるのだが、不死の存在が道を誤ったらどうやって修正するのだろうか…