太下義之「「コピー天国でCDが売れない」は果たして本当だろうか」『週刊エコノミスト』2004年12月7日号、p.86-87

今週の(?)週刊エコノミスト誌には「特集:iPodに負けたレコード会社:転換!音楽ビジネス」という題で、音楽業界に関する記事が4ページ載っている。上記はその記事のひとつ。
「音楽業界のジレンマ:「失われた十年」からの再生の可能性」(PDF文書)の簡略版。
この記事では、音楽市場の縮小の原因を、ユーザーの「選択可能性」=「オプション価値」*1の低下に求めている。
昭和50年代(1970年代後半〜80年代前半)にかけても、音楽市場(アナログ・レコード市場)の縮小があった。この原因は、テープレコーダーによる「個人録音」の普及のためとされている。それに対して、著者は別の仮説を提起している。当時、個人録音の普及、ウォークマンの発売など音楽の需要は伸びていた。しかし、小売店の品揃えが売れ筋に集中し、商品のバラエティが低下していたこと。その結果、売れ行きの悪い旧譜を中心に廃盤が増加し、ユーザーが楽曲を購入できなくなったこと、すなわち「選択可能性」が低下したことが原因であると主張している。
著者は現在のCD市場の縮小も、このオプション価値を提供するビジネスモデルが確立できないかったことが原因であると考えている。そして、パッケージ販売というビジネスモデルを脱却し、音楽配信アーカイブの発達に伴う仲介コンサルティング(紹介・推薦機能、試聴機能、楽曲販売の融合)など新たなビジネスモデルの構築を求めている。


全体としては、他でも言われるように、大手レーベルがユーザーのニーズに対応しきれていないということを主張している。
しかし、昭和50年代のレコード市場縮小を「オプション価値」という観点から解釈し、そこから現在の問題を照射した点が興味深い。

*1:現在までは利用されていない(利用するか否かは不確定な状態)が将来的には利用される可能性がある環境において、潜在的利用者の将来の利用や選択の可能性を確保しておくことに対して見いだす価値