防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』読了

軍事学入門

軍事学入門



教科書というものは、内容の良し悪しに関わらず、あまりおもしろいものではないが、この本もその例にもれない。なんというか、文章が固すぎて、どうにも読むのがつらかった。結局、通読するのに一月近くかかった。
内容自体は興味深い。軍事学の幅広い内容が、概観できる。今回は図書館から借りたが、レファレンス用に一冊持っていてもいいかもしれない。
以下、感想を簡単に。


国際法の節が興味深い。戦争に関する国際法について簡略にまとめられているが、これを読むと、国際法の見地からすれば、アメリカのイラク侵攻は明らかに国際的な慣習法を踏みにじっているものということになるだろう。アメリカだからこそ表立って制裁を行う国はないが、アメリカに対する信用、将来の世界の安定に非常にマイナスの行為だったのではないだろうか。


二つ目。軍事史に関連して。なんというか、背景にある歴史観が古色蒼然としている。もちろん、歴史学と、実学的な性格を持つ軍事史とでは目指すものが違う。しかし、それにしても、差異が目に付く。
ジェフリー・パーカーの『長篠合戦の世界史』(ISBN:4495861514)が刊行されたのが1994年。歴史学では、それ以降、日本人でも「軍隊の社会史」を手につける人が出てきている。それに対して、1999年刊行の本書では、その影響がまるっきり見られない。
両者の刊行時期は、影響が出てくるには時間的に微妙なタイミングではある。また、「国民国家の形成」に興味をもつ歴史学と、あくまで軍事を研究することに目的がある軍事史では、その興味のありかた差があるのは当然の話だが、歴史学とのコントラストが印象に残る。


第三章は、陸海空軍の戦力や特性について書いた部分。読んでいておもしろかったのだが、この部分だけなら、文庫本で手に入る松井茂の『世界軍事学講座』(ISBN:4101474222)でも、代替できるような気がする。


本書の最大の目標は第五章にあったのだが、この部分は少し物足りないように感じる。戦争をやるのに一番手間がかかる部分が、この後方支援だけに、もう少しスペースを取って、理論的・概念的な部分から、実務的な部分にいたるまで、徹底的に解説してもらいたかった。
補給・後方支援について解説した本がほとんど見当たらないだけに、そのあたりに期待していたのだが。