安田雅俊他『熱帯雨林の自然史:東南アジアのフィールドから』

熱帯雨林の自然史―東南アジアのフィールドから

熱帯雨林の自然史―東南アジアのフィールドから

 マレーシアの熱帯雨林をフィールドとした研究者たちによる入門書的な書物。門外漢にもなんとか分かる。植物の専門家と動物(哺乳類)の専門家が参加しているため、熱帯雨林の多様性や複雑さが、より分かりやすくなっている。あと、それぞれの分野の研究手法の違いもおもしろい。
 全体の構成は、植物・動物・人間活動の熱帯雨林への影響の3部構成。
 本書を読んで感じたのは、熱帯雨林、あるいは生態系・地球環境システムの途方もない複雑さ。それを解明しようとする人間の限界。植物学の葉を集めて、いちいち数えるというのは果てしなく手間がかかりそう。小型哺乳類は、そもそも観察するのが難しい。
 本書でちょっと残念に思うのは、昆虫など哺乳類以外の動物の専門家が参加していないことか。
 ところで、あとがきで

 熱帯地域での長期間にわたる地道な生態学研究を、大学や研究所に常勤の職を得てから行なうのは難しい。その理由は、ほとんどの常勤の研究職は日本を拠点としたものであり、熱帯雨林に長期滞在し、毎日をフィールド調査に費やすといったことが難しいからである。

このあたり、他の国でも、そう条件は変らないとおもうが、もう少しなんとかならないのかな。こういうのから発展するソフトパワーがこれからの日本には重要になると思うのだが。