『歴博』No.148 2008/5/30

 この号の特集は「職人の技術」。手仕事の技能が、時代の変遷によってどう変化していくかを論じている。興味深く感じたのは、結城紬と日本酒についての記事。
 湯澤規子「結城紬生産を支える技能の特徴とその継承過程」は、題名のごとくの内容。「糸取り」によって糸が作られ、それをもとに紬が織られる。この糸については、糸取りをする人によって、それぞれに特徴があり、しかも、どのような糸も無駄にならなかったとか。個性的な糸がむしろ必要で、それぞれの糸が適材適所の使い道があったそうだ。また、技能の再生産と集落の関係、家庭内での継承と、近代化のなかで従事する人の減少等の問題が紹介される。属人性というか、集落内のコミュニケーションの中ではぐくまれた技術というのが、おもしろい。
 青木隆浩「清酒の品質と技術」も、味覚に関わることだけに、より社会や製造技術の変化によって揺れ動いているさまが示される。明治20-30年代には、辛口の日本酒が製造されたが、これは桶による貯蔵で風味が付くことに対応したため。これが明治40年代以降、ビンの普及と品評会が新酒を審査することに対応して、甘口に変化する。戦後は、甘口の酒は、三増酒などの増量酒など粗悪品とみなされがちになったため、辛口化が進んだとのこと。味覚の揺らぎが興味深い。また、季節労働者である杜氏の減少と常勤労働者への変化、それに伴う酒造文化の変化(新しい試みにチャレンジする傾向)も紹介される。