「蔵元自ら個性の酒造り:社長や社員が杜氏秋田で取り組み:食産地を訪ねて」『朝日新聞』09/9/15

 さまざまなアルコール飲料が楽しめるようになり、日本酒の地盤沈下が続く。全国有数の酒どころ秋田県で、個性ある新しいサケを目指し、蔵元自ら酒造りを手がける二つの蔵を訪ねた (大村美香)


新鮮が売り「小回り」蔵
 秋田市の中心部。秋田酒造はマンションの一階にある。広さ200坪(660平方?)の小さな酒蔵。8月末、蔵は仕込みの準備で忙しく動いていた。
 プチッ、プチッ。耳を澄ますとタンクの中から、かすかにはじける音がする。さわやかな果実の香り。酵母を大量に培養する「酒母」のタンクだ。部屋は室温6度に保たれている。
 杉板張りの麹室を開ける。ムッと温かい空気に包まれる。ここでは蒸したコメを広げ、麹菌を繁殖させ麹を造っている。
 この後、酒母に麹、蒸し米、水を3回に分けて加え約1カ月発酵させる。今回の純米生酒「秋仕込み」は一升瓶(1.8リットル)1200本分。10月に完成する。夏を越して熟成した「ひやおろし」が各地から出回る中、搾りたてのフレッシュな味わいを売りにする。
 空調や冷却装置付きタンクで細かく温度を管理できる設備を整えた。それでも、「酒を仕込むには、この時期は過酷です」と社長の小林忠彦さん(47)。04年から杜氏も務め、自ら酒造りの現場に立つ。
 日本酒の工程には微生物の力が不可欠で、雑菌の繁殖は禁物だから、仕込みは寒い冬が一般的。しかし、小林さんは年間の仕込み回数を増やしている。
 「小回りがきく小さい蔵だからこそ、です。旬の顔をもつ酒を出したい。造れば売れるという時代が続いたせいか、日本酒はどれも似たり寄ったりの印象が一般的にある。色々な味わいがなくては。多様性が生き残る道だと思います」
 創業1919(大正8)年のこの蔵では、市販用より他の酒蔵に売る酒を中心に造っていた時期が長かった。02年に蔵を建て替えて現在の形にし、規模も150石(約2万7千リットル)と小さくして、純米酒中心の製造に切り替えた。
 造る酒の6割は生酒という加熱処理をしないタイプ。冷蔵の必要があり販売期間も短くなるが、その分新鮮だ。銘柄「ゆきの美人」は酸味があってすっきりとした後味が特徴。小林さんは、店の声や飲んだ人の意見を聞きながら、次に仕込む酒のプランを練る。
 秋田酒造から歩いて、5、6分ほどの場所にあるのが、新政酒造。創業1852(嘉永5)年、生産量5500石(約99万リットル)。現存する市販酵母の中で最も古い歴史を持つ「協会6号酵母」が見つかった蔵としても知られる。
 取締役佐藤祐輔さん(34)は07年に帰郷し、父の7代目卯兵衛社長のもとで働き始めた。社員を杜氏にすれ新体制を組み昨秋から個性的な酒の開発に挑戦している。「欠点のない酒より、飲んでこの蔵とわかる酒を造りたい。原点に戻って6号酵母を追求し新しい酒造りをしようと思っています」
 本数限定で仕込んだ一つが貴醸酒「陽乃鳥」。貴醸酒は酒を造る際の水の代わりに日本酒を使う、酒で仕込んだ酒で甘く深い味わいが一般的。だが陽乃鳥は甘酸っぱいすっきりさわやかな口当たり。
 「6号酵母のまろやかさを核にもぎたてのブラッドオレンジの味わいを目指しました」。今までの路線とはまったく違った味わいに、注文が殺到した。
 佐藤さんは酒の保存管理も重要と言う。タンクよりは瓶に詰めて温度を一定にして貯蔵すると酒の質が保てる。瓶貯蔵のスペースを1.5倍に増やす予定だ。「造ったそのままの味でお客様に届けたい」。設備補修や大掃除の夏が過ぎ、今年の酒造りが始まった。


消費量と杜氏の減少 背景に
 日本酒の消費量は近年減少の一途をたどっている。国税庁の統計によると、75年度には167万5千キロリットルあったが、97年度には112万2千キロリットル、さらに07年度には66万4千キロリットルと97年度の6割に落ち込んだ。
 日本酒の酒蔵も減り続けている。75年度には3229場あったが、07年度には1845場に。酒造り職人のトップに立つ杜氏も数を減らしており、日本酒造杜氏組合連合会に加盟する杜氏は75年度には2810人いたが、08年度は809人になっている。
 日本酒ジャーナリストの松崎晴雄さんによると、杜氏は伝統的に稲作農家による農閑期の季節労働。冬の間、蔵に泊り込んで酒造りに携わっていたが、今では専業農家も少なくなり、高齢化と後継者難に陥っている。変わって蔵元の特に若い世代が直接酒造りをするという事例が増えているという。
 松崎さんは「製造から経営、販売まで一貫して手がけることで、酒蔵が消費者の好みに敏感になってくる。また消費者への情報発信力も高くなるというプラス面もあるだろう」と話す。

 うーん、私自身もあんまり日本酒は飲まないな。醸造酒は悪酔いするから。蒸留酒が主体。日本酒もこだわれば面白そうだけど、体調面でそんなに酒を飲めなくなっているしな…
 社会構造の変化も大きいのだろうけど。出稼ぎ労働が減少するとか。需要とか、メーカーの寡占化なんかも大きいのだろうな。


杜氏の減少関連では、以下が興味深い:
民俗研究映像「平成の酒造り」製造編、継承・革新編 「体と五感の使い方に違いがあると感じた」というのが興味深い。
杜氏Wikipedia