C.B.ディヴィス他編『鉄路17万マイルの興亡:鉄道からみた帝国主義』

鉄路17万マイルの興亡―鉄道からみた帝国主義

鉄路17万マイルの興亡―鉄道からみた帝国主義

 うぼあー、わかんねー!
 図書館から借りた本が片付いたので、積み本崩し。15年来の塩漬けだった本を撃破。いや、いままで手が出ないわけだわ。今回最後まで読んで、理解したかというと心許ない。自由貿易帝国主義とか、非公式帝国とか、レーニンとか、ギャラハー=ロビンソンとか、ジェントルマン資本主義とか、「帝国主義」論のついての議論が頭に入っていないとサッパリわからん本だ。鉄道の本というよりは、帝国主義研究の素材に鉄道を使った感じ。慣れない話過ぎて、頭が痛い。
 内容としては、鉄道敷設をめぐる諸アクター、中枢の資本家、帝国政府、現地の政府、推進者など、がどのように動いたかを明らかにし、その実際の動きの多様さを析出。帝国主義的な進出がイギリスやアメリカなどの中枢の意図のみで動くものではなく、中枢と当該地域の政治や経済の諸活動との相互作用によって決定されるものだということを明らかにする。このあたり、ギャラハー=ロビンソンの「非公式帝国」や「自由貿易帝国主義」などの議論を実証する。ロビンソンが序章と終章を書いているくらいだから、そのあたりの議論に棹さす動きなのだろう。研究史を知らないからなんとも言えないが、帝国を中心と周縁の相互作用として把握しようとする考え方には、好感を持つ。
 国家の形成と帝国への帰属の両方に作用したカナダの事例、翻って小国家同士の対立を生みだしたブラックアフリカの事例。アルゼンチンとメキシコの鉄道政策と国家統合。諸帝国の対立を利用して自己の利益を確保しようとしたタイと中国。それぞれの国で、独自の特色がある。この流れで考えると、最初の東京横浜間の鉄道建設時の公債はイギリスで募集したそうだが、それがどのように作用したか。あるいは計画時は中山道だったが、最終的には東海道に建設された本州の幹線について発行された公債は誰が買ったのか。あるいは華族資本を集中した日本鉄道をどのように位置づけるのか。日本の初期の鉄道建設も興味深い対象になりうるのではないだろうか。


 一番印象的なのはメキシコの事例かな。アメリカ資本を導入しての鉄道建設によって、国家の統合を目指したポルフィリオ・ディアスの鉄道政策の帰結。その過程で出現した「道徳改革」。開発主義と道徳主義が結び付いた時の醜さ。直接は描写されていないが、想像しただけで嫌な気分になれる。

 以上の人々および他の著名な合衆国の資本家たちは、メキシコの原材料を手に入れるために鉄道を利用した。鉄道はメキシコ南部を変容させ、熱帯農産物の生産と輸出を増加させた。メキシコはこの地域から世界の中枢市場に向けて麻、ゴム、砂糖、チクルゴム、果物、堅木を輸出した。こうして農業が商品経済に組み込まれていくのにともなって、季節的労働力不足、債務労役、公然化した奴隷制、国有地の民有地への大規模な転換といった問題が発生した。ポルフィリオ期にはとくに先住民共同体にみられるような土地保有が犠牲にされることによって、アシエンダ(大土地所有農園)が拡大され定着していった。フリードリッヒ・カッツは、植民地期から何らかの方法で土地所有を維持してきた大半の村民は、十九世紀後半から二十世紀にかけて土地を失ってしまったとしている。かれはこの経済ブームのことを、「十六世紀と十七世紀における先住民の大量死以来の最大の破局」とまで極言している。鉄道は長期間にわたって未統合のまま残されていた大農園を復活させ、それを収益性のあるものに変えていったのである。p.111

 こうして、大量の移動する労働者が出現し、それに時間厳守などの道徳を強制しようとする動きが広がる。これを梃子に中央が地方に対して権限を拡張しようとする。今の東京や大阪を見ているような感じだな。ここまでひどくないとは言え。