諏訪兼位『裂ける大地:アフリカ大地溝帯の謎』

裂ける大地 アフリカ大地溝帯の謎 (講談社選書メチエ)

裂ける大地 アフリカ大地溝帯の謎 (講談社選書メチエ)

 『講談社選書メチエ』各個撃破作戦第一弾。と言いながら続かないような気がするが。
 アフリカ大地溝帯を中心に、アフリカの地質現象をいろいろ取り上げている。中軸は、アフリカ大地溝帯の話。第一章がアフリカ大地溝帯のアウトライン、第二章でその大陸分裂のメカニズム、第三章は南米大陸とアフリカ大陸が分裂したときの「西・中央アフリカ地溝帯」を採り上げている。第四章は旅のエピソード。
 読んでいて分からないというほどではないが、ここで改めてまとめるほどは分かっていない。基本的に岩石学とか鉱物の話って、高校の地学でも苦手だった記憶が。とりあえず、ホットプルームの上昇で起きていること、それにともなって活発な造山活動が起きていて、カーボナタイトとという特殊な溶岩が噴出していることは分かった。個人的に面白かったのは、第三章のアフリカ大陸西縁の地溝帯の話かな。世界地図帳と首っ引きで見ていると、中生代の地溝帯形成の跡が現在でも残っている状況がわかるし、関連してフォークランド南アフリカの地質が近いとか、セーシェル大陸移動の話、ビクトリア滝の移動なども取り上げられていて、興味深い。ダイヤモンドの母岩になるキンバリー岩の生成の話も。
 しかし、こういう地学の本を読んでいると、人類の歴史って本当に造山活動も、気候も安定した、刹那の時間に発展したものなんだなというのを痛感する。アフリカ大地溝帯を形成する造山活動の何分の一かの活動でも、人類社会は混乱に陥りかねないわけで。いかに危うい世界の上にいるか。


 以下、メモ:

 フランスの人類学者コパン(1994)は、ヒト科とチンパンジー科の分岐には、アフリカ大地溝帯の形成が大きな役割を演じたという「イーストサイド物語」とよぶ仮説を提唱している。ヒト科とチンパンジー科が分岐する以前は、大地溝帯は熱帯アフリカを分断するほどの構造帯ではなかった。アフリカ大陸はひとつの均一な動物地理区をなし、後のヒト科とチンパンジー科の共通の祖先が生息していた。ところが、800万年前ごろになると、地殻変動が激しくなり、隆起によって西壁をなす山系が形成され、断層により大地溝帯が形成された。
 こうしてできた障壁と裂け目は、大気循環に大きな影響を与えた。大地溝帯よりも西側では、大西洋の影響で相当量の雨量を保ったが、大地溝帯以東では、モンスーンと同様な季節性のある気候を生じた。広大なアフリカ地域は二分され、それぞれが独自の気候と植生をもつようになった。大地溝帯よりも西側では湿潤なままで森林と林が保たれ、大地溝帯以東では草原が広がり、サバンナへと変化した(コパン、1994)。
 ヒト科とチンパンジー科の共通祖先集団は、こうして分断された。西側の子孫は湿潤な環境下で樹上適応を進めた。これがチンパンジー科である。対照的に、東側の子孫は新しい生存形態を生み出し、開けた草原の環境に適応した。これがヒト科である。ヒト科とチンパンジー科とが、同一地域で一緒には見出されないのは、このためである(コパン、1994)。

 もう、これって定説状態だよね。反証もなさそうだし→コパン、Y「イーストサイド物語:人類の故郷を求めて」『日経サイエンス』1994年7月号、1994

 1億8000万年前、巨大なゴンドワナ大陸は分裂をはじめ、アフリカやオーストラリア、インド、南極、南米などにバラバラに分かれていった。1億年前、この分裂運動は頂点に達した。
 アフリカ大陸の内部でも、深部に達する大きなひび割れを生じた。地下深部の高い圧力の下では溶けない岩石も、ひび割れが生じて圧力が急に減るので、溶けはじめる。
 このようにして地下200キロの深部から、ひび割れに沿って、新幹線なみのスピードで上昇してきたのが、キンバレー岩のパイプである。キンバレー岩のパイプは、地下深部のいろいろな岩石をもぎ取って地表まで運ぶので、地下深部物質を調べる重要なかぎでもある。これが超塩基性捕獲岩である。

 このキンバレー岩が噴出する時の光景ってのは、スペクタクルだけど恐ろしいだろうな。気候にも影響しそうだ。まあ、それ以前に、地下の深部までひび割れを作るような地殻変動ってのは想像もしたくないが。