佐野貴司『海に沈んだ大陸の謎:最新科学が解き明かす激動の地球史』

 意外と読み終わるのに時間がかかってしまった。地球の鉱物の化学組成をメインにした本。以前、太平洋の巨大海台の本を読んでいたので、新しい本も手に取ってみることに。
 話の枕に、ムー大陸の話を使っているけど、アレが人種差別思想の本であると指摘されていることを考えると、編集者も含めて、少々無防備だったんじゃなかろうか。そもそも、1万2000年前なんて、つい最近にそんな天変地異が起こったら、痕跡がぞろぞろ残るだろう。南極の氷床のボーリング・コアとか。間尺に合ってないんだよなあ。


 同じマントル物質のかんらん岩で、リソスフェアとアセノスフェアに別れるというのがいまいち理解できていなかったが、海洋地殻形成の際に、一部が溶解分離しつつ、かんらん岩の範疇にとどまり、流動性が低下したのがリソスフェア。そして、かんらん岩の10%強くらいが玄武岩とはんれい岩になったのが地殻。アセノスフェアの対流から分離して、アセノスフェア上を、マントルに沈み込む引っ張りと、浅い海嶺から深い海溝へと滑り落ちて行く力で動く、と。
 太平洋プレートは2億年ほどまえに出現した、比較的新しいプレートで、既存のプレートを押し出しながら、世界最大のプレートに成長した。
 また、太平洋には、巨大海台が複数存在し、これらはかつて一体で大陸を形成していたが、プレートに引き裂かれてしまったという説が提案されていたが、これは、これらの海台の構成物質が玄武岩であることや、プレートの動きの研究から、ほぼ否定されている。


 大陸を形成する大陸地殻の構造は、海洋プレートと比べると複雑。火成岩、深成岩、堆積岩など。最下部には、はんれい岩がマントルで変成したグラニュライト、深成岩の花崗岩、各種の火成岩が浸食分解され、堆積した堆積岩など。全体として、海洋プレートやマントルのかんらん岩より比重が軽い大陸地殻は、海洋プレートより比高が高くなる。
 大陸地殻の平均組成の求め方が興味深い。安定地塊の各所から採取した岩石の分析。あるいは、頁岩の代表的な産地を調査して平均組成を求め、下部地殻の平均組成と合算して、SiO2含有量が約60%の安山岩組成と算出すると。
 大陸地殻を構成する安山岩花崗岩が、割と複雑な生成過程を取っている。安山岩は「分別結晶作用」によって、玄武岩マグマの一部が残る、あるいは含水マントルの部分融解などで形成される。花崗岩に関しては、堆積岩が溶かされてマグマ化する、あるいは、流紋岩質マグマがゆっくり冷えるの2パターンが想定される。ここいらあたり、改めてまとめようとすると、まとめきれないなあ。つまり、理解しきれていないわけだ。


 第4章は大陸形成の歴史。ここらあたり、もう、完璧に分からん。いや、読んでるときにはなんとなく分かるんだけど、いま、まとめようと思うと、全然ダメでねえ。
 最初は、年代測定の方法として、ウラン-鉛年代、ジルコン年代、ルテニウムハフニウムを利用するアイソクロン年代などの方法が適用される。
 あるいは、大陸地殻の形成の歴史。マントルが熱かった時代には、トーナル岩が作られていたが、だんだん安山岩になっていく。
 あとは、大陸の成長の歴史。さまざまな成長モデルが提案されているが、特定の時代に急速に発達したというのが、現在のところもっともらしい、と。これは、ハフニウムと酸素同位体比を利用した年代の決定からは、33億年前と19億年前に急速に発達したらしいという見通しが得られているそうな。


 ニュージーランドを含む大陸地殻は、かつて、大陸であった可能性が高い。しかし、沈み込み帯の近くにあって、沈み込み帯の後退によって引き延ばされ、沈んでしまった。そういえば、ニュージーランドも、比較的最近まで、沈んでいた島だという話を聞いたことあるような。大陸の辺縁では、そういうドラスティックな変動が起きうると。
 あるいは、大西洋に存在するリオグランデ海台が、大西洋の「大陸」であった可能性。
 そして、最後は巨大噴火と巨大隕石といった天変地異。個人的には、巨大隕石では、大絶滅を説明しきれていないように思えるのだが。


 以下、メモ:

 融ける前のマントルアセノスフェア)も融け残りマントル(プレート)も岩石名は同じ「かんらん岩」ですが、12~15%融けた分だけ化学成分が変化します。マグマとマントルの化学組成が違うため、マグマ成分が取り去られた融け残りマントルともとのマントルでは、成分が違ってくるのです。具体的には、融け残りマントルは融ける前にくらべてアルミニウムやカルシウム成分が減って、マグネシウム成分が多くなります。p.56

 なるほど…

 なお、巨大海台が海洋プレートに強くへばりついていると、海洋プレートの沈み込みがとまってしまうこともあるようです。このようなことが起きると、ほかの多くのプレートの動きが変わってしまいます。実際、長い地球の歴史において、世界中のプレートの動きがガラリと変わってしまった時期が何回もありました。巨大海台の大陸への付加は、プレートの動きが変化する原因の一つと考えられています。p.62

 そのとき、どんなことが起きるんだろう。地震とかのパターンが大きく変わりそうだけど。