平朝彦他『地球の内部で何が起こっているのか?』

地球の内部で何が起こっているのか? (光文社新書)

地球の内部で何が起こっているのか? (光文社新書)

 地球深部探査船「ちきゅう」の就役に合わせて出版された本。地球科学や海洋探査の歴史から説き起こされて、「ちきゅう」という船がどういう流れの中で、何を目的に作られたかがわかる。ライザー掘削を利用して、ガスが多い場所の掘削、そして、マントル境界を目指す。日本が地球科学のトップとったるでー、となかなか鼻息の荒い感じ。しかし、10年たった現在から見ると、「ちきゅう」って、期待されていた成果を出せていないような気がする。J-DESC - 科学支援をみると、今年から来年にかけての航海予定も決まっていないようだし、2013年以降の研究航海は見られないし。財政当局側の思惑は、10年だけ学者に自由にさせて、後は資源探査船として利用しようってところだったのかね。今年もメタンハイドレートの掘削ということだし。JAMSTECの学問的な発見のプレスリリースも、ジョイディス・レゾリューションの名前の方がよく出てくるしな。マントルまで掘りぬく目標はどうなってるんだろうか。


 第一章は海底探査と地球科学の発展の関わり。音波探査による海底地形・地質の判明、1968年以降の深海掘削計画による海底岩石の採取とその年代測定、ホットスポット仮説の証明、地磁気の縞模様などによって、海洋底拡大が立証され、大陸移動プレートテクトニクスの端緒となる。また、1950年代末以降、マントルと地殻の境界のモホ面まで掘削するモホール計画が提唱されるが、これは具体化が進む前に中止される。続いて、国際深海掘削計画がアメリカの大学主導で行なわれ、学術的成果をあげることになる。
 第二章は日本近海の地球科学的特徴。太平洋プレートとフィリピン海プレートのもぐりこみに伴なう「海溝−島弧−背弧海盆系」として、日本列島と日本海が形成されている。掘削孔への地震計設置の試み。あるいは、西日本では付加体によって陸が拡大する一方、日本海溝側では大陸地殻の岩盤が削り取られているという。付加体が発達するには、海溝に大量に堆積物が供給されること、水平の断層が発達しやすい地質条件があることが必要であり、南海トラフでは、富士川が供給する日本アルプスの土砂が供給されて、これが付加体になっているという。日本海は、東日本と西日本が観音開きに動いて形成されたが、詳細な年代の特定は、日本海の海中にガスが多く、ジョイデス・レゾリューション号の掘削施設では危険度が高く、データが十分に蓄積されていないという。
 第三章は地球が過去、激しい気候変動を経験してきたという話。
 第四章は、地球全体での物質循環の状況の話。プルームテクトニクス、全地球史、マントルモグラフィー、GPS観測網による数ヶ月単位での地殻変動の観測などによる、新しい地球観の形成。地球内部の現象と地表の気候には密接な関係があると。地殻深くまで存在する地下生物圏の存在と、その産物であるメタンハイドレートが気候に与える影響。マントルまで持ち込まれる水や鉱物に含まれる水素の放出による熱水循環。炭素の循環。
 第五章は「ちきゅう」の建造に至る経緯と、運用組織。国際深海掘削計画のための船ジョイデス・レゾリューションの掘削技術に限界があることから、日本主導で海底掘削を進めるべく練られた計画であるという。ここ10年ほど、日本の学術研究を潰そうとしているとしか思えない財政当局の動きを見ると、よくもまあ、こういう建造も運用も金がかかりそうな計画が認められて、実現したなあと。GPSと6基のアジマススラスターによる自動船位保持、ガスの噴出に対応するライザー掘削装置、大深度を掘削するためのケーシングと冷却システム、充実した船上研究システム。採取されたコアを保管する高知大学海洋コア総合研究センターなど地上の体制。掘削孔を利用した地震計などの観測システムの試みなど。
 第六、第七章は、ちきゅうによって何ができるかといった話。運用の組織の話や、科学課題。プレート境界巨大地震のメカニズム、火山列島の進化、地下生命圏の研究、メタンハイドレートと地球環境の関係、ヒマラヤの形成が地球の気候にどのような影響を与えたか、マントルまでの掘削などが目標とされている。
 巻末の文献紹介も有用。


 以下、メモ:

 ダーウィンの仮説が最終的に掘削によって証明されたのは、一九五二年にハリー・ラッド(Harry Ladd)らが、マーシャル諸島のエニウェトック環礁において一三〇〇mの掘削を行なった時である。火山島はよそうよりはるかに深く沈降していた。p.31

 これって、単純に侵食で沈んだのかね。地殻の沈下や上に巨大なさんご礁が形成された影響もありそうだけど。

 今では当たり前のことかもしれませんが、その時、海底にも古い地層(白亜紀第三紀のもの)が露出しているということが、世界で初めてわかったのです。それまで、海底の表面はすべて現世の堆積物に覆われていると思われていましたが、海底でも大規模な浸食作用や無堆積が起きていることが、初めて発見されました。p.43

 へー。海底でも侵食。

 掘削の結果、南海トラフの上部、五〇〇mの厚さの地層は、ほとんどが砂層であることがわかった。その下に火山灰を多く含んだ泥岩があり、さらに下部には均質な泥岩に変化した。泥岩全体の厚さは六〇〇mであった。
 泥岩層の中ほど、海底下九四五〜九六五mで、破砕された泥岩層を貫いた。これが沈み込んでゆくプレートと、その上部に付加されてゆく地層との境界に相当する水平な断層(すべり面)であった。
 泥岩の最下部に含まれるプランクトン化石の年代から、四国沖合いのフィリピン海プレートは一五〇〇万年前にに誕生したことがわかった。
 このプレート上に一五〇〇万〜約五〇万年前までの長い期間に、約六〇〇mの厚さの泥岩が積もり、五〇万年前に砂層が急速に堆積を始め、約五〇〇mの厚さの地層となって泥岩層の上に堆積した。
 五〇万年で五〇〇mという堆積速度は、関東地方の平野にたまっている川の土砂の堆積速度とほぼ同じである。
 以上の地層の重なり方は、次のような歴史を物語っている。
 掘削地点付近のプレートがまだ日本列島に近づいていない頃、遠洋で泥やプランクトンの遺骸がゆっくりと降り積もり、泥岩層となった。五〇万年前に南海トラフ付近に近づいた時に砂が堆積しはじめた。
 この砂には木片が多く含まれている。また、海ではなく湖や川に住む珪藻が混在しており、河口に堆積した砂が、なんらかのプロセスで四七〇〇mの深海まで流れ込んできたことがわかった。
 砂の鉱物の特徴を調べ、砂の出所探しを試みると、富士川河口の砂に一致した。富士川駿河湾へ流れ込む。駿河湾の河口に溜まっていた砂が海底の雪崩(海底土石流。その堆積物をタービタイトと呼ぶ)となって七〇〇kmくらい流れ、室戸の沖合いに土砂を堆積させたのである。p.69-70

 南海トラフの地層。なんかすごいな。そんな頻度で海底土石流が起きるんだ。つーか、今起きたら、何が起きるんだろうな。どのくらいの津波になるんだろうか…

 たとえば、冬、東北地方は垂直方向に10mmほど沈降することがわかってきた。これは、とくに日本海側が多く沈むので、積雪の荷重の可能性が指摘されている。
 積雪の荷重による変動説が正しいとすると、これは地下に流動しやすい物質が存在することを示している。その候補はマントルである。マントルは熱と水の存在によって流動しやすくなる性質を持っている。
 駿河トラフ、南海トラフで起こった巨大地震には、季節性があることが知られている。
 六八四年から一九四六年までに十二回の巨大地震があったが、一番多かったのは一二月で五回。一方、三月から七月までは一回も起きていない。つまり、この海域の巨大地震は秋から冬にかけて起き、特に一二月に集中する。理由はよくわかっていないが、海水温度や海流の状態がプレート境界に対する荷重に影響を与え、その結果生じた摩擦の変化が、地震発生のきっかけを作るのかもしれない。p.131

 へえ。積雪で沈降したり、南海トラフ地震に顕著な季節性があったり。

 南アフリカのダイヤモンドは、マントルが噴出してできたキンバーライトという岩石から産出する。キンバーライトは、マントルが流体(CO2ガスと推定されている)とともに一挙に地表近くに噴出して、できたと考えられる。いったいどのようにして、地下一〇〇kmよりも深い所から、岩石が高速で噴出するのだろうか。驚愕するしかない。p.134

 実際、こういう噴火が現在起きたら、大惨事どころの騒ぎではないわな。破局噴火&大気候変動になりそう。