後藤和久『巨大津波 地層からの警告』

 再読。前回、読んだ時は、まともに感想がかけなかったので。
 津波堆積物を地質学的に研究している人による、地質学の分野からの津波研究の紹介。実際に、どういう作業をしているのかとか、研究の方法などにも言及している。津波堆積物研究ができること、できないことが明確にされていておもしろい。
 全体的な構成は、最初に津波堆積物研究の概説、続いて東日本大震災、日本列島各地の津波の歴史、先島諸島における巨大津波の研究、世界の津波災害と津波堆積物、まとめとなっている。


 最初は、地質学的な津波研究について。
 あちこちでボーリング調査を行なって、火山灰や放射性物質を使った年代測定で、相互関係を把握。各地で、どのような津波があったかを明らかにしていく、地味で時間がかかる作業と。まあ、世の中、地味じゃない研究はないけど。従事する人が少ない研究分野で、ここのところ、引っ張りだこと。あと、堆積物を採取する適地が少ない。特に、人間活動で撹乱されたところは、使い物にならない。
 津波堆積物による津波の検出の長所としては、記述史料が存在しない時代でも、数千年レベルで津波の繰り返し状況を追跡できること。太平洋沿岸の中では長期にわたる史料を保持する日本でも、最大1300年程度で、1000年に一度クラスの災害一回分でしかない。他の地域では、中南米が比較的長いが、ほかは100-200年程度しかない。一方で、地質であれば、数千年、数回分の情報が得られると。ただ、こちらも、最終氷期には海水準が下がって、海岸線はいまや海の底だし、現在地上の部分は沖積堆積物で覆われているだろうから、遡れるのは、せいぜい一万年程度ではあるのだろうけど。
 一方で、「地層化」して、間に別の地層が形成されないと、堆積物に区別がつかない。結果、数年程度の時間間隔で津波が頻発するような事態になると、個々の津波が識別できない。時間分解能の低さ。
 また、津波堆積物から分かるのは、「津波があった」ということだけで、その津波のメカニズムが分かるわけではない。そのため、海底地すべりや隕石落下といった単発的イベントによる津波によって、パターンが歪められているかもしれない。また、どこで地震がおこったかも、分かりにくいと。


 その後は、具体的事例。
 最初は、東日本大震災津波について。
 貞観地震津波の堆積物は、ドンピシャで火山灰が上に乗っていたから、年代が確定できたのか。1000年に一度と言われるが、それより、多少頻度が高そうなこと。堆積物が、浸水範囲そのものを示すわけではない。津波の動きといった話。


 第4章は、日本各地の津波の痕跡に関して。
 北海道の太平洋側は300-500年に一度程度の巨大津波が発生。前回が17世紀で、次がいつ起きてもおかしくない状況と。
 東北では1611年の慶長地震津波の話や頻繁に津波に襲われる三陸地域が取り上げられる。三陸地域の頻度の高さが印象的。一方で、津波堆積物が残るような平野が少ないので、なかなかパターンは分からないと。プレートの内部で起こるアウターライズ地震による津波の危険性が高く、数十年レベルで警戒する必要があること。M9レベルの巨大地震では、スマトラ島沖にように、短期間に周囲で大地震が頻発する可能性もあり、油断できない。
 関東地域でも、外洋に面した伊豆や外房では、関東大震災などによって、かなり大きな津波に襲われている事例が紹介される。地震に伴う地盤の隆起の方が、地震の手がかりとして利用されている比率が高い。「元禄型」のような隆起量が大きい地震は2000-2700年、相模湾周辺での地震は400年に一度程度の頻度と。
 南海トラフは高頻度で地震が発生する地域。一方で、複数の震源域が、それぞれ事例に応じて連動するので、次回どうなるかは読みにくいと。東海地域は1945年前後の時には動いていないので、歪みがたまっている可能性がある。それが、東海地域の地震警戒態勢の基礎と。
 あとは、日本海側では規模の割りに大きな津波が起こりやすい。あとは、山体崩壊に伴う大津波として、北海道の渡島大島や雲仙眉山などの事例が挙げられている。鹿児島の海に沈んだカルデラ破局噴火を起こすと、津波も起きると。


 第5章は、石垣島津波石の話。
 巨大なサンゴの塊が、津波によって打ち上げられている。そのサンゴの死んだ時期を年代測定すると、18世紀後半で、1771年に起きた多くの死者を出した津波と一致すると。150-400年程度の頻度で、巨大な津波が起きている。一方で、その被害が先島諸島の南部に集中するメカニズムは分かっていない。海底地すべりが誘発されて、津波を大きくするといったメカニズムがあるかもしれないと。先島諸島も、再来への準備が必要な時期か。
 津波石は、2013年に天然記念物に指定されていると。


 第6章は世界各地の津波痕跡。太平洋沿岸地域には、実際の津波の実例とともに、津波の痕跡も残ると。1700年のカスケード津波は、現地の地殻変動の痕跡と日本における津波記事から、詳細に年代が特定できた。
 2004年のインド洋地震津波に関しては、そもそも、インド洋で巨大な津波が起きるという認識がなかったことが被害を大きくした。あるいは、リスボン地震津波
 非地震性の津波。海底地すべりや火山の山体崩壊、細い湾での地すべり、隕石の落下などが紹介される。ストレッガ海底地すべりの、東京都の1.5倍の面積の土地×厚さ1キロの地盤が崩落って、スケール感が大きすぎて理解不能だわ。


 最後はまとめ。詳細な予測は無理だけど、過去のパターンを知っているだけで動きが変わると。

 もう一つ、九州で発生した先史時代の非地震津波をご紹介しておきたいと思います。鹿児島県の薩摩半島の南方約五〇キロメートルの海上に、薩摩硫黄島という小さな火山島があります。ここは、約七三〇〇年前の縄文時代に大噴火をして形成された鬼界カルデラの一部です。この時の噴火は、日本の火山噴火の中でも特に規模が大きいものでした。噴出した火山灰は、地質学や考古学では「アカホヤ火山灰」として知られていますが、九州南部で噴出したにもかかわらず、遠く東北地方でも火山灰が見つかっています。
 この時に鬼界カルデラの崩壊に伴って津波が発生し、九州沿岸を襲った可能性があることが、津波堆積物調査の結果から指摘されています。p.132-3

 そもそも、火山灰と火砕流でおなかいっぱいというか、南九州は壊滅なのだが、それに、津波も加わるのか。フルコースだな…