後藤和久『巨大津波:地層からの警告』

 地質学による津波堆積物研究の現状を紹介した本。津波堆積物からどの程度の精度で過去の履歴が判明するかとか、研究にどの程度の手間がかかるかとか、そういうところがわかる。しかしまあ、地質学的な時間スケールと災害対策なんかの時間スケールの大きさは相違が大きいよなあ。津波堆積物研究は比較的新しい時代で、かなり細かい時間経過を検出しているけど、それでも目盛りが100年とか、何十年くらいになってしまうしな。現実の社会の中で、30年後にどうなっているかなんて考えようもないし。
 北海道の太平洋側や先島諸島では巨大津波をともなう地震がいつ来てもおかしくない状況とか、現在の南海トラフでの最大規模の予想が過去の履歴にはないが理論的にはありうる地震を想定してのものとか、いろいろと興味深いな。あとは、ノルウェーやフランスの海底地すべり津波の話も。海底地すべりはいつ起きるかわからないだけに、怖いものがあるな。あと、地震による堆積物であることを確認するために、地殻変動の痕跡がともなっているほうがいいとか。


 以下、メモ:

 ところが、津波が発生して津波堆積物が堆積し表面が土壌化する前、たとえば一年を隔てて次の津波が発生すると、津波堆積物の上にそのまま新しい津波堆積物が堆積します。こうなると、短時間に続けて発生した二回の津波で堆積した津波堆積物は、一つの津波堆積物に見えてしまいますので、一度の津波で堆積したと判断されてしまうことがあります。実際に、二〇〇四年と二〇〇五年の津波でできた津波堆積物をインドネシアで観察すると、どこに境目があるのかがわからず、一つの津波堆積物に見えてしまうという問題が指摘されています。
 残念ながら、この問題を解決する方法は今のところありません。津波堆積物は、数百年や数千年を隔てて発生する巨大津波の履歴を知るには大変有効ですが、年代測定の難しさも考えると、数十年以下というような短い間隔で発生する津波の履歴を知るには不向きです。したがって、二〇一一年の地震以降、数年や数十年以内に何が起きるのかは、津波堆積物を用いて過去から学ぶことはできず、次に津波が起こるのは一〇〇〇年後ということもできません。今後数年や数十年の間にどのようなことが起きそうかを考えるには、国内外の過去の地震津波後に何が起きたのかを歴史記録から読み解いたり、スマトラ島沖のような超巨大地震が発生してから数年、数十年が経っている地域について、その後どのようなことが起きているのかを参考にしたりすることが重要です。p.116-7

 短期間の変動を検出するには、津波堆積物からの研究は難しいと。年を経ないで起きた津波の場合、見分けがつかない。

 次に、海底地すべりに伴う津波の事例を紹介します。一九七九年一〇月一六日に、フランスのニース空港の近くで海底地すべりが発生し、局所的に津波が発生するということがありました。この時にすべった土砂の量は東京ドーム数杯分くらいなので、海底地すべりの規模としてはそれほど大きくありません。それでも、津波の高さは三・五メートルに達し、八名が犠牲になっています。この災害はあまり知られていないですが、非常に恐ろしい事例だと思います。ある日突然、何の前触れもなく津波が押し寄せるということがあり得るということを示唆しているからです。p.168-9

 海底地すべりとか、山体崩壊は怖いな。本当に。