海津正倫編『沖積低地の地形環境学』

沖積低地の地形環境学

沖積低地の地形環境学

 『微地形学』に続いて、こっちも良くわからない。地形学の基礎的な知識が欠如しているということがわかった。ついでに、読了までにもものすごい時間がかかっている。都合、一ヶ月超えている。読み始めはいつだっけか。で、ほかの本にガンガン追い抜かされるから、余計、内容が頭から抜けていく。
 とりあえず、沖積平野というのが、最終氷期の海水準低下によって深くなった谷に、後氷期の海水準上昇による傾斜減少による堆積物が充填されて形成されたと。とすると、本当に最近できあがったものなのだな。数千年で結構深い谷を埋めていることになる。千年とか、数百年レベルで地層の堆積が進んでいて、古代や中世の居住環境を埋め尽くしているというのもすごい話だな。
 前半の第一部は、場所を特定しない、一般的な沖積低地の特徴を紹介する。後半は、具体的な場所にもとづくケーススタディ。個人的には、具体的な場所に即した後半の方がわかりやすかった。本書の著者は、中部地方をフィールドにしている人が多いようだが、編者が声をかけて集めたのかな。
 濃尾平野という、越後平野といい、かなり急速に沈降している土地。その点では、熊本平野と共通性が高いのかな。熊本平野での、こういう地質的な研究はどうなっているのだろうか。つーか、越後平野とか、ものすごい勢いで沈降しているのだな。1000年から2000年に一度程度の頻度で地震が発生して、その上に1-2メートルほど堆積していると。越後平野の南部に展開していた古代集落が、13世紀頃に発生したとおぼしき地震で沈降して、放棄され、再利用が数百年後というのも、恐ろしい。当面レベルでは周期がめぐってこないと思うが、実際に起きたらどのくらいの被害になるんだろうな。濃尾平野に関わる中部傾動地塊や濃尾傾動地塊の話も興味深い。
 第8章のレーザー測量によるDEMを利用した水害の解析とか、16章の津波の挙動と微地形の関係が印象に残る。海岸部に微高地があるような場所だと津波の到達深度が下がる。石巻では帰り波が、標高の低いほうに向かった。あるいは、大きな建物で津波の進行方向が変わるとか、細かい挙動の差で家が流されるか流されないかなどの被害レベルに差が生じたとか。
 あと、誤解していたけど、液状化って、後背湿地より自然堤防の方が起きやすいのか。


 以下、メモ:

 東日本大震災のあと、土地の特性を知ることの重要性が指摘されているが、高潮や洪水氾濫に対する脆弱性に関しても、本来的には土地の特性が大きな意味を持ってる。わが国では精度の高いDEMが得られるようになり、水害に関して土地の性質を地盤高で判断する傾向が増しているように感じるが、沖積低地における地盤高は基本的には低地の地形の生い立ちを反映していて、地盤高だけでは十分ではない場合も多い。たとえば、1981年の茨城県南部を流れる小貝川の水害では破堤箇所が旧河道が枝分かれする部分にあたっていて、平野の地形分類図を見ることによってその危険性を知ることができた場所にあたっている。そのような地点では多くは地下水位が高く、地盤が軟弱であることが多いため、地震時には堤体がその部分で崩れやすいということも考えられ、河川管理の上でも注意しなくてはならない場所と考えられている。また、1960年代以降、都市化にともなって郊外の農地での住宅地化が進んだが、本来とくに水はけの悪い後背湿地や旧河道の部分などに新興住宅地が作られた例も多く、以前は水田の冠水という形で家財や人命に対する危険性が少なかった場所が、床下、床上浸水の常襲地となって住民を苦しめている例も多い。このような事例は、本来の低地の地形からかなり把握出来ることであり、水害地形分類図から発展した治水地形分類図、土地条件図などを参照することで、自然災害に対する脆弱性の一端を知ることが可能である。p.10

 くしくも、同じ地域で2015年に起きた常総水害でも、破堤箇所は旧河道なんだよな。破堤箇所ってのは、ある程度、事前に予測ができるということなのだろうか。旧河道と交わるところは、重点的に補強警戒を行うなどの対処がありうると。

 三角州や海岸平野に多大な被害を与える自然災害として高潮と津波をあげることができる。このうち高潮は低気圧の通過によって海面に対する気圧が低下し、通常より海面の高さが高くなる現象で、発達した低気圧や台風、ハリケーン、サイクロンなどの襲来によって顕著な海面の上昇がみられる。近年では2005年にアメリカ合衆国南部を襲ったハリケーンカトリーナや2007年にインドやバングラデシュを襲ったサイクロン・シドル、2008年にミャンマーのエーヤワディー川デルタを襲ったサイクロン・ナルギスなどが記憶に新しいが、1991年にはサイクロンがバングラデシュの南東海岸地域を襲い、著しい高潮によって約14万人の犠牲者を出しているほか、1970年には、サイクロン・ポーラによって約50万人もの人命が失われている。わが国でも1959年の伊勢湾台風によって濃尾平野南部地域を中心として約5000人の犠牲者を出す被害を受けているが、濃尾平野南部の地域ではそれまでにも、1896(明治29)年、1912(大正元)年など高潮による被害を繰り返して受けており、必ずしも伊勢湾台風が特異な出来事ではなかったことがわかる。p.55

 バングラデシュの高潮被害のエグさが。先進国でも、高潮と無縁ではないと。濃尾平野は、高潮被害を受けやすい地勢であると。

 液状化が地盤工学的に注目されるようになったのは1964年3月に発生したアラスカ地震と同年6月に発生した新潟地震においてであった。このうち、アラスカ地震においては地盤の液状化に伴って引き起こされた大規模な地すべりによってアンカレッジに近いバルデーズ市の臨海部が海中に没するという現象がおこり、Seedらの液状化に関する研究が進められた。p.61

 なんか、エグい事が起きていたんだな…