『民俗学とは何か―柳田・折口・渋沢に学び直す』新谷 尚紀(吉川弘文館)

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 つまりこれは、文化人類学ではなく、歴史学である。狭義の歴史学はいわゆる文献史学であるが、そのアンチテーゼとして現れたのが柳田国男民俗学であった。遺物資料を扱う考古学、民俗資料を用いる民俗学、そして文献史学、この三者が連携協業して開拓し、再構成していく歴史学が広義の歴史学となる。柳田による新しい歴史学、それは民俗を歴史資料として読む解く生活文化の変遷論であり伝承論である。列島規模での比較研究に基づき見えてくる地域差・階層差・時差をとらえる立体的な歴史学であり、さらに「ハレとケ」「常世とまれびと」等の分析概念を抽出する学問世界は、社会学文化人類学にも通じあう世界となった。──実に、明解である。

 こういう定義をすると、歴史学が文献の枠を超えてその情報源の幅を広げている現状、民俗学アイデンティティというか、存在意義そのものが問われるような気がするが。