鈴木孝『名作・迷作エンジン図鑑:その誕生と発展をたどる』

名作・迷作エンジン図鑑―その誕生と発展をたどる

名作・迷作エンジン図鑑―その誕生と発展をたどる

 おー、すげー(全くわかっていない顔
 蒸気機関の出現の歴史から、産業用、船舶用、航空用、車両用、鉄道用など、各種のエンジンの開発の経緯や系譜などを解き明かしている。著者が、日野自動車ディーゼルエンジンの開発に関わってきた経歴のため、日野とその前身の東京瓦斯電気工業が関わったエンジン、そして各種のディーゼルエンジンに関する記述が厚い。一方で、ガソリンエンジンは、相当少ない。給排気の調整機構なんかの知識が全くないので、全然わかった気がしないな。
 最初のほうは、ニューコメンやワットの蒸気機関につながるエンジン研究の系譜。最初は火薬でピストンを動かそうとしていたり、セイヴァリのエンジン、ニューコメン、ワットと発展する蒸気機関。その一つの到達点としてコーニッシュエンジンとカルノーの熱力学。
 シダ植物ヒカゲノカズラの胞子を燃料として利用した、最初の内燃機関であるニエプス兄弟の機関がすごいな。爆発するなら、粉末でもいいんだな。あるいは、最初の実用的な内燃機関となったルノワールのガス・エンジン。最初は、蒸気機関の機構を流用する形で出現して行ったのだな。
 後半はほぼ、ディーゼルエンジン。航空機用に関しては、東京瓦斯電気工業がらみでいくつかガソリンエンジンが紹介される。上下で爆発させる複動式のディーゼルエンジンなんてのもあるんだな。あと、第一次世界大戦ごろの、エンジンが回転するロータリーエンジンもすごいな。どうやって回っているのか、いまいち理解できないのだが。あとはヒルトエンジンのライセンスと称した魔改造とか、航空用ディーゼルエンジンとか。
 なんというか、ラストのネイピア社製デルティックエンジンのインパクトがすごい。複動ディーゼルのピストンを三本組み合わせて、三角形のエンジン、動力は頂点にあるクランクシャフトで取り出すとか、エンジンの英国面ってやつか。鉄道に搭載されてトラブル連射とか、戦後ガスタービンが普及するまで軍用小型艇のエンジンに利用されたとか、こんな無茶なエンジンを、実用にしたと言うのもすごいな。運用するほうも苦労したんだろうけど。マイバッハGO6ディーゼルエンジンもトラブル満載だったと言うし、鉄道用のディーゼルエンジンって難しいのだな。というか、ディーゼル機関車って、出現が1930年代後半なんだよな。


 文献メモ:
鈴木孝『エンジンのロマン』岩波新書、1966
鈴木孝『20世紀のエンジン史』三樹書房、2001
鈴木孝『ディーゼルエンジンの挑戦』三樹書房、2003
鈴木孝『ディーゼルエンジンと自動車』三樹書房、2008
鈴木孝『日野自動車の100年』三樹書房、2010
S・リリー『人類と機械の歴史』岩波書店、1968
富塚清『内燃機関の歴史』三栄書房、1969
ルドルフ・ディーゼルディーゼルエンジンはいかにして生み出されたか』山海堂、1993
石渡孝三『艦船夜話』出版共同社、1984
土井金次郎『決戦兵器陸軍潜水艦』光人社、2003
山中秀太郎『機械発達史』大河出版、1987
ケネス・マンソン『第一次大戦戦闘機』塙書房、1970
高橋昇『日本の戦車と軍用車両』文林堂、2005