毛利元貞『図解:現代の陸戦』

図解 現代の陸戦 (F-Files No.030)

図解 現代の陸戦 (F-Files No.030)

 ぱらっとめくって、対テロ戦争の戦術が紹介されているようだったので、借りてみた。しかし、著者を見ると、微妙に評判の悪い人なんだよなあ。実際、「戦略編」は全然戦略になっていないように感じる。そういうところを割り引いて読む分にはいいのかな。最初の部隊のところとか、装備に関しては、知識があるのかな。
 現地の社会とコミュニケーションを行って、安定化させていくという、米軍の方向性が解説されている。しかし、結局、うまくいっていないんだよな。イラクの破綻、アフガンの停滞。情報部門の膨張を前提に書かれているが、『トップシークレットアメリカ』が指摘するように、情報部門が膨張し、コストがかかりまくっている状況は捨象されている。あと、本書ではちょこっとにおわされているだけだが、情報組織相互の連携がうまくいっていない状況がここでも見えるな。
 まあ、装備や民軍作戦なんかに関しては、簡単に知識が得られるな。時間もかからないし、信用しすぎなければ、まあ、いいんじゃなかろうか。


 全体的には武器編、戦略編、戦術編、武器装備編、心理編と分かれているが、いっていることは全体として、たいして変わらない感じが。治安戦において、現地住民の支持が重要であること。世論の支持を取り付けるために、住民とコミュニケーションをとったり、復興支援活動を行ったり、宣伝を行う部隊が重要であること。イラクでは基本的には市街戦主体であるのに対し、アフガニスタンでは山岳戦が主体になる。特にアフガンでは、既存のノウハウが通じない。特殊部隊や情報部隊の重要性。軍人のストレス対策。
 現地住民とのコミュニケーションが大事とはいえ、語学に堪能な軍人を一般部隊にまで行き渡らせるとなると、コストがかかりそうだな。あと、ソ連軍を撃退したアフガニスタンの険阻さが、アメリカ軍も苦しめていると。むしろ、イラクの市街戦の方が戦場の監視がやりやすかったというのが興味深い。
 あと、先進国の軍隊は、歩兵のアサルトライフルに口径5.56ミリを採用しているが、状況によっては有効でないこと。近距離での交戦が多いイラクでは、容易に人体を貫通してしまって、逆襲されやすい。逆に、アフガニスタンでは、交戦距離が開いて、威力不足。アフガニスタンでは、第二次世界大戦以前のボルトアクションライフルで、アサルトライフルをアウトレンジする手法が多用され、対策を迫られたこと。イギリス軍では、分隊アサルトライフルを減らし、7.62ミリのマシンガンを多数装備することで対応しているそうな。いちいち装備を変えなくてはならないとなると、訓練・部品・弾薬と兵站だけでも、すごいコストがかかりそうだ。
 先進国側が夜戦にものすごく強くなっているのも印象的。昔は夜は弱い側の味方だったけど、今は昼の方がマシと。


 本書は細かい情報が有用な本。装備がおもしろい。ハーベストホークや特殊部隊用のさまざまな銃器。特殊部隊用の弾薬やら、12.7ミリ弾を使うM16、弾薬や各種装備を交換できる小銃SCAR。ライトで眩惑させる戦い方。偵察グレネード。建物の中の敵兵を察知する「レーダーーヴィジョン」。
 RPG-7のさまざまな扱い方。ロケットの後方爆風を隠すために水をまくとか、対空攻撃。ホバリング中のヘリを多数のRPGで落とすとか、1キロで弾頭が自爆する設定を利用しての攻撃。自爆設定を使った歩兵攻撃など。RPGって、汎用性高いんだな。


 しかし、ここで市街戦で壁を吹っ飛ばして突入とか、ドップラーレーダーで監視とか普通に書いてあるけど、本当のところどこまで有効なのかね。イラクでは、夜間に民家に突入しまくって。一般市民に極めて不評だったわけだが。あと、人が集まるところを監視するのはいいけど、結婚式会場を無人機で爆撃したり、道路わきの耕地で農作業中の人を吹っ飛ばしたりして、こちらはアフガンやパキスタンで、これまたものすごく不評を買っているんだよな。地元の信頼を勝ち取るってのと、真逆の効果をもたらしているわけだが。
 戦闘ストレスのところで、信頼できる上司が大事と書かれているが、信頼できる上司ってのも希少資源のような。


 以下、メモ:

 一般の戦闘部隊にとって、特殊部隊の容姿はよく問題になる。その行動を知らされていないため、テロリストと間違えてしまうからだ。
 アフガニスタンではその傾向が強く、一般部隊の指揮官たちが苦情を申し立てたこともある。彼らは誤射を避けるため、特殊部隊の隊員が現地人の格好をすることを禁止させようとした。
  (中略)
 アメリカ陸軍特殊部隊(グリーンベレー)は、友好諸国の軍隊を訓練するのが目的で編成された。よって、現地で長期間活動するために不可欠な、現地の言葉や風習を身につけており、間違われやすかった。
 彼らは本来、軍事訓練を行う指導者だった。1980年代以降、世界情勢が変化するに従い、任務に変化が起こった。p.20

 へえ、グリーンベレーって、基本は教官だったのか。軍事顧問とか、そういうやつね。イラクに現在送り込まれているのも、その類か。しかし、訓練しても、ISISに負けて、あっさり壊走したイラク政府軍みたいになってしまうと意味ないよなあ。

 たとえば取材がある場合、交戦規則カードの内容は徹底された。しかし、取材がない場合、兵士はAK47突撃銃やスコップを任務に携行した。民間人を間違って射殺したとき、死体の脇に置くという偽装工作に用いるためである。p.72

 うわー、エグい。

 よって、AC-130はいつでも使えるわけではなかった。そこで臨機応変さが得意の海兵隊は、独自に使える機体を手に入れようと開発を開始した。
 その結果として、保有しているKC-130J空中給油機に着脱できる対地攻撃用キットの開発に成功した。機体に火器管制装置や目標探知センサーを取りつけて、給油機を対地攻撃機に改造した。p.102<< 
 ハーベストホーク。C-130系列を使うのはなんでだろう。やはり搭載量が魅力なのだろうか。A-10にも、できそうな任務だと思うが。