岡部いさく『クルマが先か?ヒコーキが先か? Mk.2』

クルマが先か?ヒコーキが先か?〈Mk.2〉

クルマが先か?ヒコーキが先か?〈Mk.2〉

 自動車雑誌の連載二冊目。
 今回は、第5章「スピードの彼方へ」で、より速いスピードを目指すエピソード、第6章「テクノロジーを越えて」がガスタービンの自動車への適用の試みを中心に、さまざまな技術導入の試み。第7章「クルマの向こう」は飛行機が先に導入された技術を中心とした話。各章、上下ないし上中下のエピソードがあって、読みごたえがある。
 第5章は、スピードへの挑戦。飛行機の幼年期には、むしろ自動車の方がスピード競争で先に行っていた。それが、第一次・第二次世界大戦を経て、飛行機がはるか彼方へ飛び去る。地上を車輪で走る以上、極音速とかは無理だよなあ。最初に時速200キロを超えた、ドペルデュサン単葉機がかっこいい。しかし、スピードに挑戦する車の、なんか無茶っぷりがすごいな。馬鹿でかいエンジンで無理やりスピードを出す感が。最後は、戦闘機用のジェットエンジンで音速超えるとか。怖すぎる。車輪を回して走るタイプの自動車の最高速度は、1991年に「スピード・オ・モーティブ」が出した時速659.8キロが最高記録なのだそうで。
 ポルシェやブガッティ、ルノーのスピードへの挑戦。あと、ベリータンク・レーサーと呼ばれる、航空機の落下タンクを利用したスピード・レーサーがおもしろい。


 第6章は、ガスタービンエンジンの自動車への適用を中心に、ターボ過給器、木製モノコック、電気自動車、燃料電池、計器、GPS、自動運転などの技術的挑戦。P-47サンダーボルトって、あのずんぐりした胴体の中を、ターボ過給器のダクトが走っているのか。コクピットの後ろにターボ過給器設置とか、乱暴だなあ。あと、バークレイのグラスファイバースポーツカーの話も印象的。
 自動車へのガスタービン搭載の試みも興味深い。レーシングカーに搭載した事例もいくつかあるが、ピストンエンジンの車を抜けなかったか。排気が高熱すぎるとか、細かな操作に対するレスポンスが悪いといった欠点が、車には向いていないと。しかし、エイブラムスの場合は、そういうレスポンスの悪さを、どうやって凌いでいるのかな。


 第7章は、自動車に空力設計を導入したフランク・コスティンの話を中心に、飛行機の技術が自動車に適用された話。飛行機の意匠が車に導入されたり、飛行機のブレーキの変遷とか、グッドイヤーの飛行船とか、ホンダジェットとか。大型旅客機は、ブレーキで、巨体のスピードを殺さなければならないので、自動車よりもよほど気をつかった技術開発が行なわれていたとか。
 飛行機も、自動車も、マイナーなのがぞろぞろ出てきて楽しい。

 これがピストン・エンジン車よりも速く地を這おうとしたガスタービン車の物語。ガスタービンはスロットル・レスポンスが悪いのと、エンジンブレーキが利かないのが最大の欠点で、おかげで細かいコーナリングに向かないし、ブレーキにも大きな負担がかかる。だからインディアナポリスや昔のレイアウトのルマンのようなサーキットでないと、レシプロ車との勝負はつらかったのだ。
 ガスタービン・エンジンそのものはコンパクトで軽いけど、燃費が悪いんで燃料搭載量が多いし、吸気や排気ダクト、ヒートエクスチェンジャーとかにスペースを喰われて、軽さも小ささも相殺されて、結局メリットはあまりないことになる。ましてストリートカーにすると熱い排気が出るし、ゴミや埃を吸い込むと困るから、とても市街地じゃ使えない。いくら回転系しかない合理的なエンジンとはいえ、吸気も排気も直接外に出せる航空機ならともかく、やっぱり地上のクルマには向かないエンジンだったわけだ。p.91

 むしろ、排気がネックだよなあ。戦車は、こういう欠点をどう克服しているのやら。

 この2隻の墜落と、ドイツのヒンデンブルク号の炎上事故で巨大硬式飛行船の命運は尽きてしまったが、小型の軟式飛行船の方は相変わらずアメリカ海軍で哨戒用に重宝され続けた。
 第2次大戦でもグッドイヤー社製のものを中心に150隻近くが、ドイツのUボートに対する警戒などに使われた。さらに戦後は空中レーダー基地としての任務にも用いられ、1960年代初期までアメリカ沿岸の空には軍用飛行船がふよふよと飛んでいたのだった。p.187

 へえ。軍用飛行船の歴史って、あまり紹介されないような。