『宇宙をゆく』

 イカロスMookの「ゆく」シリーズの一冊。まさか宇宙にいけるわけはないから、基本的には宇宙開発に関するスポットの紹介。種子島宇宙センターをはじめ、JAXA関係の施設や宇宙をテーマとした博物館の紹介。宇宙関係のサービスの紹介。太陽系や宇宙開発の基礎知識。「サブカル視点」から見た宇宙。そして雑多な話題を集めた「宇宙にまつわるエトセトラ」など。個人的には、最初の種子島宇宙センターのルポと最後の「宇宙にまつわるエトセトラ」がおもしろかったかな。
 巻頭はカラーで種子島宇宙センターのレポート。敷地がどうなっているのかとか、発射台の写真、H-2の構成に合わせて射点が2つあるあたりはおもしろかった。しかし、ロケット組立棟と移動発射台の写真がないのが興味深い。やはり、企業秘密とかで撮影許可が下りなかったんだろうな。1400トンの以上の重量物を動かして、打ち上げもこなすメカって、すごそうだけど。車輪だけは写真があって、鋼鉄製のホイールにウレタンを貼り付けたものだそうな。
 「おもしろ宇宙サービス」の章も興味深い。月面開発や軌道エレベータの話。ヴァージン・ギャラクティックの「宇宙旅行」。バルーン宇宙葬、衛星電話のしくみなど。月面開発については、清水建設の研究部門に取材をしたようだ。月の赤道上に太陽光発電パネルを敷き詰めて、地球にレーザーとマイクロ波で送電。なんとも気宇壮大な構想だ。軌道エレベータ、地上の風はケーブル延長のごく一部なので無視できると答えているが、そういう考え方なのか。衛星電話って、地上の交換器が必要なんだな。あと、「バルーン宇宙葬」が興味深い。要は、細かく砕いた遺骨を、バルーンで成層圏まで持ち上げて、ばら撒くと。微粒子に砕いているなら、成層圏にそれなりの時間漂って、広範囲に散布されるだろうな。「宇宙葬」と言えるかどうか微妙な気もするが…
 第二章末の「大衆の興味としての宇宙」、第三章の「ちょっと変わった宇宙学」も、切り口がおもしろい。社会の中で、宇宙がどう受け取られたか。技術の展開に沿って、想像力が規定されている状況。宇宙人やUFO目撃談も、時代を画する目撃談によって規制される。さらに、惑星探査の進展にともなって、太陽系惑星の「宇宙人」が消えていくのも興味深い。
 ラストは、「宇宙にまつわるエトセトラ」。雑多に、興味深いトピックを集めたもの。宇宙では、水を大量に使う洗濯が難しい。で、宇宙用に抗菌・防臭機能が強化された衣類が開発されているという。超音波で接着する無縫製仕上げってのも、すごいな。人間が縫うのと比べて、どの程度効率が違うのか知らないが。宇宙での植物栽培技術の開発の話もおもしろい。植物は重力を基準に根を下に、本体を上に伸ばす。無重量状態では、その基準がなくなるため、でたらめな方向に根と葉がバラバラの方向に育つ。クリノスタットという、回転によって一定方向に重力が向かないようにする設備で、擬似的な無重量状態をつくりだし、光で成長方向を誘導する実験をしているとか。あとは、気圧が低い環境下で植物を育てる実験とか。気圧が低くできれば、それだけ構造を簡単に軽くできる。窒素を減らして、酸素と二酸化炭素だけの大気組成であれば、0.3気圧で育成できるそうな。すごいな。擬似ブラックホール生成実験の話も興味深い。

 さらに、実用的な人工衛星の打ち上げも活発になる。軍事目的の偵察衛星をはじめ、通信目的の通信衛星、気象観測などを目的とする地球観測衛星、天体観測を行なう宇宙望遠鏡など、数多くの人工衛星が米ソや日本、ヨーロッパなど世界各国で打ち上げられた。現在、宇宙空間には、8000個以上の人工天体が漂っているとされ、そのうち7%が運用中、残りは全てスペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミになっている。p.76-7

 なんという無駄な。回収はコストがかかってしょうがないってことなんだろうけど、なんらかの手を打つ必要があるよなあ…