『地域学シリーズ6:新・熊飽学』

 80年代末に、熊日新聞に連載された特集を単行本化したもの。第7章の明治熊本地震の記事を読みたくて借りてきたのだが、他の章もなかなかおもしろい。つーか、30年前だと、いろいろと景観が違うんだな。三の丸、今はほとんど建物なくなっているけど、かつてはたくさん建物があった。車がやたらとレトロ。あとは、NHKの下の坪井川沿い、90年代以降に公園化されたのだなとか。
 大方が、熊本市域の遺跡をめぐる話。こちらも、環境の違いに驚くな。アマチュアが表面採取なんかで活躍しているけど、そもそも、今や地表が露出している場所がほとんどないしな。建築関係に人脈を築いて、逐一チェックするというのも難しそうだし。
 先史時代の熊本平野の集落形成や熊本平野もそれなりの人口があったらしいというのは興味深い。西部の比較的最近、陸化したところは別として、立田山周辺なんかは、比較的早くから開発されていたんだな。あとは、国分尼寺水前寺公園の南東側にあるらしいとか。


 本題は、明治熊本地震。なんというか、いろいろと今回の震災を先取りしているような論点が興味深い。
 液状化の危険性。今回は、市街中心部では、噴砂がおきていないのは、震源が遠くなったからだろうな。同時に、かつては存在しなかった地下配管への被害拡大。地下水位への影響も興味深い。遠距離の大規模地震で、水位の変動が見られたそうだが、今度の地震ではどの程度の影響が出たのだろうか。水前寺公園の水位低下など、地下水脈に大きな影響が出ているのは確かだが。「大規模な倒壊はまずない」との記述があるが、益城熊本市の南東部を中心に、かなりの規模の家屋倒壊が起きている。
 災害対策の歴史も興味深いな。1978年の宮城県沖地震以降に、資料を収集して、震災対策基礎調査報告書、校区単位の地域防災カルテの作成が行われている。あるいは、明治熊本地震の史料として、水島貫之『熊本明治震災日記』なるものがあるとか。
 「起きてみないと予測のつかない被害があることも考えておく必要がある」か。
 しかしまあ、30年前でもここまで分かっていたのに、熊本は地震の危険があるという事実が常識になっていなかったのだな。まあ、地学を多少学んで、熊本平野も危険があるという知識があった私にしても、真剣な危機感があったかというと、そうではないわけで。その程度の感覚では、地震の危険性を説いても迫力はないか。


 以下、メモ:

 実は、熊本城の調査に携わった建築家たちが必ず頭をひねるナゾがある。建築の基準寸法が、一間を六尺とする場合と六尺五寸とする場合と混在していることだ。宇土櫓から南へ大手門のわきまで伸びる続櫓も一階と二階で寸法が違う。「明らかに別な時期、別な大工の手で改造された証拠」と同櫓の修理に当たった文化財保存計画協会の矢野和之理事は言う。p.30-31

 へえ。
 熊本城を扱った第1章がおもしろい。小天守が増築だったとか、宇土櫓がもともとの熊本城の天守だった可能性とか、大型の櫓は廃城令で廃棄された城から持ってきたものかもとか、なにやらすごい話が。

 上立田から今では珍しい木橋の武蔵橋を渡ると、上南部。同じ白川の河岸段丘だが、この左岸側は加藤清正によって用水路がつくられ、水田となっている。p.78

 武蔵橋って、割りと最近まで木橋だったのか。見たかった。

 さかのぼって文政九年(一八二六)、鳴動とともに山頂が崩壊し始めた。「天変地異だと大騒ぎになり、山頂近くの峰にお経を埋めたそうです」。「経岳」の別名もこの伝承に由来する。p.186

 明治熊本地震に先立つ、金峰山地震ないし地盤災害。

「三角点の移動や地震、低重力異常などは、九州に南北方向の引っ張りの力が働いていることを示しています。よく知られているように日本列島の下には太平洋プレートが潜り込んでおり、その結果、日本列島には常に圧縮の力が働いているんです。九州だけがなぜ引っ張りの力なのか、非常に興味深い課題です」
「九州から台湾にかけては沖縄トラフとよばれる海溝があり、海溝が今、活動的なことは先日の深海2000の調査でも確認されました。天草沖の様子がわからないんですが、九州中央部の開き方は沖縄トラフの開き方とよく似ており、沖縄トラフの北の端に当たるのではないかと思えるんです」p.238

 へえ。GPSによる移動なんかの成果で、このあたりの見方はどのように修正されたのだろうか。

 このほか、立田山断層沿いに深さ百メートルを超す地溝が見つかり、加勢川に沿っても同じように深い地溝があるという姿が浮き彫りになった。p.240

 なんか、すごい話だな。そして、加勢川沿いに被害がひどかったわけで。つーか、500メートルボーリングしても、第三紀の基盤に届かないのか…

 九州中部で地震が多いのは阿蘇、九重をはじめ雲仙や由布・鶴見などの火山が東西に並んでおり、火山活動に伴う地震が起きると同時に破砕帯の断層による地震が発生するからといわれる。また地殻の破砕の程度が進み、大きなエネルギーが蓄積されにくいため、巨大地震は起こりにくいとされる。p.247

 ここは、大はずれだったわけだ。

 現在、熊本市水道局や西部ガス、NTTなどでは管の材質の向上、地盤の改良、破損しやすい接続部などの改善を行い、設備の耐震性のアップに努めている。総延長千七百キロの配水管を持つ市水道局では第四次拡張事業に伴い管を更新すると同時に管の継ぎ手を、地震で折り曲がっても離脱しない特殊な継ぎ手に換えている。震度6にも耐える施設を目指しており、すでに全配水管の三分の二以上を終えているという。p.255

 それでも、あちこちで水道管がぶっ壊れたわけだが…