東京地学協会特別講演会「マグマと活断層の上に生きる」

 熊大で開催された講演会。地学と災害をテーマにした講演会。「東京地学協会」初の、地方での講演会だそうだ。新聞で見かけて、行くことに。
 4時間近くの講演会は、講演会のブランクが開いたこともあって、けっこう疲れた。今年は、雨にもたたられて、あんまり講演会に行っていない。ブランクがある身に、長丁場はきつかった。


 講演4本に、シンポジウム。構成は以下の通り。
岩松暉「地学を国民教養に!」
大倉敬宏「九州の火山活動」
松田博貴「熊本地震と九州の地震活動」
福島大輔「火山と人とのかかわり、火山防災」
パネルディスカッション「火山・地震活動と人々の暮らし」


 一本目、「地学を国民教養に!」は全体の導入。災害時の被害軽減のためにも、地域の文化維持のためにも、地学の知識が必要である、と。桜島軽石上の車両走行実験を行った際、何故そのような実験を行うかという声があったが、大正桜島噴火では軽石が大量に積もった歴史が忘れ去られている。西日本豪雨の際にも、真備町が浸水危険地域であることはあらかじめ分かっていたし、広島では犠牲者の7割が土石流危険地域だったが、避難情報に反応しなかった。熊本でも、布田川断層帯が危険なのは周知されていたのに、それが一般的な認識にならなかった。
 土地の成り立ちの知識が必要である、と。
 日本が森の文化であるなど、後半の話はちょっとパス。最近、その種の文明論には懐疑的。


 二番目、「九州の火山活動」は、阿蘇にある京都大学火山研究センターの大倉敬宏氏。マグマの生成・蓄積・上昇・噴火を研究する地球物理学の研究を行っているのだそうで。水準測量やGPS観測点、地殻変動の観測による、桜島阿蘇のマグマ溜まりの挙動の話がメイン。
 大正桜島噴火の際、水準測量の結果、噴火直前には隆起、噴火後は1メートル超の沈降が起きていることが明らかになっている。その後は、再隆起。火山活動の静穏期には隆起、活動が盛んになるとマグマの放出量が増えて隆起が停滞する。これらの活動量の観測から、姶良カルデラ中心部のマグマ溜りには、毎年1400万立方メートルのマグマが貫入。ここから、桜島下のマグマ溜りに、マグマが供給される。
 現在は、1914年の大正噴火の8割まで、マグマが蓄積。大規模噴火の準備が整いつつある状況。
 逆に、阿蘇では1940年代から、沈降傾向にあり、火山性ガスの大量放出などによってマグマを消費していて、大規模噴火の可能性は低い。
 阿蘇中岳火口は、湯だまり→赤熱現象→ストロンボリ式噴火のサイクルがあり、直近では1990年代から2016年にかけて。2016年の噴火が、一連のサイクルの締めくくりだった、と。
 噴出物の量で定義する火山爆発指数で、VEI4が1914年の桜島大正噴火以来、5が1707年の富士山宝永噴火以来起きていないというのが、微妙に不気味だな。それだけ、エネルギーを溜めているわけだし。4が100年に数回、5が数百年に一回だから、VEI4の噴火は近い将来、どっかで起きそうだよなあ。


 三本目、「熊本地震と九州の地震活動」は、熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センターの松田博貴氏。
 日向灘の海溝型地震中九州以北の内陸型地震の存在。陸塊の動きの境界にある熊本平野では、布田川断層帯・日奈久断層帯による地震の危険が以前から指摘されていた。2013年の時点で、M7.2-7.6程度の地震の発生が予測され、ハザードマップも作成されていた。ハザードマップの被害予想が、だいたい、現実の被害と一致。熊本地震は、前もって予測されていたものだった。それでも、いつ起きるかは、分からなかった、と。
 布田川断層帯の北側では、1メートル以上の沈降が発生。南側では隆起。高遊原溶岩や砥川溶岩の断層の南北での食い違い量を、今回の地震の変動量で割ると、高遊原溶岩では1800年から3600年に一回、砥川溶岩では1300年に一回程度の頻度になる。
 未知の断層などがあるから、熊本平野での地震がこの頻度とは限らないそうだが。熊本藩の文書などを見ても、数百年に一回程度の頻度くらいではありそうだよなあ。
 熊本地震の被害状況は、さらっと流された。しかし、南阿蘇の土砂災害は、恐ろしい。


 休憩を挟んで、四番目が、NPO法人桜島ミュージアムの福島大輔氏による「火山と人とのかかわり、火山防災」。こちらは、リスクコミュニケーションがメイン。
 火山灰が頻繁に降っても、気にしなければ、何とかなる。火山灰の健康被害は、有意なレベルでは存在しないそうだ。あとは、桜島は、水はけが良いので果樹栽培が盛ん。桜島小みかんが特産なのだとか。1960年代には、農業収入が県内一位だったとか。災害と同時に、恵みをもたらすのが火山。
 2015年に桜島が噴火警戒レベル4になった時には、積極的な情報発信を行った。研究機関や役所での積極的な情報収集、住民目線の発信。「観光はおすすめしないが、来るのは可能」という正直な情報は、それなりに好評だったと。
 情報がないから不安になる。危機時こそ、攻めの情報発信が必要。行政や専門家、住民との信頼関係が情報流通に重要。対象を考慮したマーケティングの知識の必要性、日常生活の状況について発信も必要。
 ジオパークが、専門家と住民の間で、情報を仲介する役割を果たすことができるのではないかという話。


 ラストはパネルディスカッション。どのように情報発信を行うかが、メイン。とはいえ、災害の危険性や地域特性をもれなく届けるのは、果てしなく難しそう。
 熊本地震以前から、布田川断層帯・日奈久断層帯地震の危険性は、かなり広く周知が行われていた。新聞でも、熊本の地震リスクはかなり高いと何度も記事が載っていた。しかし、県が企業誘致の広報で地震が少ないと言ったり、熊大文学部の先生方がまったく地震の危険性を認識していなかったり。熊本地震後に、熊本の歴史地震の情報がぞろぞろ出てきたのには、びっくりした。こんなに素早く出てくるのに、地震前には、全然情報が出ていなかったのだから。そういう意味で、無関心の壁を貫くのは、ものすごく難しそうだなあ、と。