『検証熊本大地震:なぜ倒壊したのか?プロの視点で被害を分析』

検証 熊本大地震 (日経BPムック)

検証 熊本大地震 (日経BPムック)

 日経の土木建築系雑誌、アーキテクチュア、ホームビルダー、コンストラクション三誌が共同で編集した、熊本地震の速報。雑誌やネットに掲載された記事を再編集したものらしい。夏ごろに買っていたけど、しばらく積んでいて、やっと読了。
 しかしまあ、日本の建築物は、こういう災害で更新されていくんだな。
 地震ごとに、住宅の建築規制が強化され、それにそったデザインになる。正直、最近の四角い住宅は、好みではないのだが、ああいうデザインになる理由も理解できる。建物全体のバランスとか、耐力壁が一階、二階、同じ場所になければならないとなれば、そう自由な形にはならないだろうな。
 やはり、震度7地震を二連射食らって、無傷で生き残れるハードウェアはないよなあ。建物が耐えても、インフラが破壊されて、かなり無力化されるだろうし。まあ、八代市役所や宇土市役所、熊本市民病院の壊れっぷりは、重要公共施設として言い訳しようもないところがあるけど。やはり、学校や病院が優先されてしまうわなあ。宇土市役所、かっこよかったけど、あのデザインのせいで耐震補強ができなかったのか。
 しかし、航空写真とか見ながら読んでいたけど、地理院地図の航空写真、阿蘇の航空写真がほとんどないのにあきれる。ちょっと、都市部から離れると、本当に情報が減るよなあ。


 全体は、フォトレポート、建築編、住宅編、土木編、過去の地震災害の五部構成。それぞれの雑誌の対象分野ごとにまとめたという感じか。


 建築編は、鉄筋コンクリの建物メイン。古いのも、新しいのも、結構、鉄筋コンクリの建物が被害を受けているのが印象的だな。ピロティ構造の建物が危険というのは既知のことがらではあるが。比較的新しいものでも、外壁が壊れたり。新しい基準のマンションでも、安心はできないと。あと、天井やガラス、外壁材が崩落して、使用不能になった建物が多い。
 「信頼を失った建築構造」とあるが、震度6以上の揺れを何度も喰らって、平気な建物は少ないと思う…


 住宅編は、一戸建ての木造住宅がメイン。個々の家はともかく、まとまった数の住宅を扱った場所では、地図を探せば、だいたい、場所がわかるな。
 そもそも、益城町が、結構傾斜きついんだよな。台地から木山川の低地の境目に立地している。何年か前に行ったときに、上り下りに苦労した。あれ、かなり盛り土造成が行われていて、地盤が崩れて破損した家も多いようだ。地盤の被害は、補償とか援助が少ないから、将来苦労するんじゃなかろうか。
 あと、今回、あまり被害がなかったような感じだけど、台地に入った小河川の谷底低地が住宅地として開発されているのは、水害をはじめとする自然災害への脆弱性を拡大させているように感じるのだが。
 住宅建築は、なんだかんだ言って新しいほうが安全なのだな。周囲の家が軒並み倒壊している中で、2015年築の家だけが残っているのが強烈。あと、本書では、1970年代より前の住宅は、あまり視野にない感じか。
 耐震等級2以上の住宅は、ほとんどが損害軽微で、強度に余裕がある家を建てるべきと。21世紀に入ってから建てた住宅でも、土台と柱の接続部や壁の筋交いが不適切だと、倒壊する事例がある。
 あとは、家具やガラスが飛び散って、避難や救出を妨げた例。いや、これに関しては、私もしっかり脱出路をふさがれて、ベランダから隣室に出ているわけだが。これは、半ば以上はどうしようもないような…


 土木編は、交通インフラや土砂災害など。今回の地震での、最大の問題は、高速道路をはじめとする交通インフラが、軒並みやられたことだよなあ。橋は、熊本市内でも、土台との間で段差ができていたし。
 多くのページが割かれているのが、立野周辺の土砂崩落。阿蘇大橋を巻き込んだ大崩落や火山研究所付近の流動性地すべり、俵山周辺の橋梁・トンネル被害などがメイン。緩傾斜地の流動性地すべりなんか、事前に予測できるのかね。あと、自殺の名所だった阿蘇大橋、ついに自らも崩れ落ちたか。残骸はどこに行ったかと思ったが、土砂の下に埋まっているのか。
 あとは、地盤の問題。旧河道や暗渠周辺で被害が大きいと。自転車では通りたくないから、知らなかったが、健軍神社自衛隊の間の谷は、被害が大きかったらしい。もともと、あの庄口川の谷って、山ノ内小がある谷につながっていたのか。それを、航空機工場建設のために埋めたと。で、その水が無理やり水路で南に行くから、若葉のほうでは水害が起きる。


 最後は、阪神大震災以降の、主要な地震による建築被害の紹介。
 規模などで、やはり中越地震が近い感じなのかな。非構造部材の落下、木造住宅の基礎との結合部分とか、このあたりはどこでも見られる課題といったところか。あと、土砂災害による交通の寸断は、中越地震と共通するな。川口町の状況が数日わからなかったあたり、記憶に新しいが。
 阪神大震災の、ビルの中間階が潰れまくっていたのは、なかなか衝撃的だったな。


 以下、メモ:

 熊本地震では、伝統構法をベースに現行の建築基準法に適合させた「新伝統構法」で建てられた建築も、震度7を初めて経験した。基礎に緊結されていない柱は最大80cm弱ほど横に滑っていたが、この挙動についていけないトイレや風呂などの設備に被害が発生。配管・配線がすべて切断されている住宅がみられた。p.56

 動くことで、耐えるとしても、配管全滅はきついなあ。ライフラインでも、水道と電気は、なくなったら、現在の住宅設備では生活できなくなるからなあ。
 割り切って、住民が修理できるようにするしかないんじゃね…

 倒壊した木造住宅に閉じ込められた場合も他構造の建物より危険だ。岡田教授は「木造住宅の倒壊では、建物内の残存空間に逃れても救出可能な時間はRC造などに比べて短くなる」と話す。人が飲食せずに耐えられる限度は72時間とされる。「古い木造住宅では崩れた土壁などから出た粒子が空気中に舞う。閉鎖空間で汚染された空気を吸い続けることで、生命維持できる時間は72時間より大幅に短くなる」(岡田教授)という。p.98-9

 へえ。土ぼこりが大敵と。

 06年の宅地造成等規正法改正で、国は谷埋め盛り土を含む大規模盛り土造成地の変動予測調査を制度化した。しかし自治体の動きは緩慢で、大規模盛り土造成地の有無を調査する1次スクリーニングの結果を公表した自治体は、16年1月時点で全国で4割弱に過ぎない。熊本県では今回の地震前に公表していた市区町村は、ゼロだった。p.133

 健軍の自衛隊駐屯地で、谷埋め盛り土造成地が被害を引き起こしていると。ほかに、谷を埋めた造成地って、あまり思いつかないけど。嘉島町サントリー工場や御船の住宅団地がそれに当るのかな