若松加寿江『そこで液状化が起きる理由:被害の実態と土地条件から探る』

 なんか、読書ノートをまとめるのに時間がかかりまくった。最終的に、3日ほどかかったかな。読んでるのと変わりない位の時間。
 「液状化履歴マップ」の人の、一般向け解説本。近年の地震における液状化被害の実態の紹介から始まって、メカニズム、液状化被害が起きやすい土地条件と土地を買う時の予測の方法、土地を買った後の調査の方法、地盤対策や建物被害からの回復方法など。家を買う人は、読んでおいたほうがよい本。
 戸建て住宅は、液状化に対しては非常に脆弱。現状では、リーズナブルな対策はない、と。南海トラフ地震を考えると、熊本平野も再液状化のリスクは低くないのかね。とはいえ、大規模な施設が必要な対策よりも、起こるたびに、ジャッキアップするほうが、コスト的には安いような気がする。
 ポンプで地下水を汲み上げて、地下水位を下げる対策にしても、ポンプが維持できなくなったころに次の地震が起きそうだしなあ。関東や宮城県あたりは、現実的なタイムスパンで機能するのかな。


 2018年3月刊行だが、今年刊行だったら、巨大な泥流が発生した9月のスラウェシ島地震や、谷埋め造成地で深刻な液状化被害が発生した北海道胆振東部地震も言及されたかな。



第1章 日本の「四大液状化地震」振り返る

 第1章は、特に液状化の被害が目立った1964年新潟地震、1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震と、海外の2010-11年のクライストチャーチ地震が紹介される。新潟地震はディテールの知識がなかったし、東日本、熊本両震災は他の被害の印象が強くて、液状化被害については断片的な認識しかなかったな。
 4大液状化被害地震の筆頭、新潟地震。アパートが倒れた写真とか、液状化がひどかったということ自体は以前から知っていたが、面的に液状化していたのだな。河口の砂丘の町は、ほぼ全域が液状化。膝まで泥水につかる。液状化した地割れに飲み込まれてなくなった女性の事例が、2例ほど。底なし沼と一緒だから、噴砂に近づいてはいけない。というか、噴砂に飲み込まれて死亡って、他の地震では聞いたことないけど。
 側方流動で、信濃川のほうにせり出して、川幅が狭くなったというのが、恐ろしい。護岸が、橋のところでうにょーんと曲がってるのがなんとも。側方流動で、ビルの基礎杭が破断していたり。リスクでかいなあ。いろいろとエポックメーキングな災害だったのだな。新潟の被害が目を引くが、酒田などでも、液状化被害が起きている。


 二番目は阪神大震災。埋め立て地、特に、港湾での被害が大きかった。これは、大きく報道された話。というか、神戸港の世界での地位低下をもたらした被害。とはいえ、埋め立て地でも、締め固めなどの液状化対策を施したところでは、被害が軽微だったという。あとは、古い埋め立て地でも発生したとか、堤防が破損して、地震による水害が発生するところだったという話も。


 三番目は東日本大震災。この地震の場合、とにかく、広域に液状化被害が広がっているのが特徴。関東と仙台平野が被害のメインだが、福島・山形・秋田の内陸部や青森でも液状化被害が発生している。また、人工的に改変した土地が、「元に戻る」被害が多いのが特徴。東京湾岸の埋め立て地、特に浦安市が大きく報道されたが、内陸部でも谷埋め造成地や河川の旧河道の沼地を埋め立てた跡地で、液状化被害が頻発している。
 1987年千葉県東方沖地震液状化を起こした場所が、再液状化被害を起こしている事例が多いのも特徴だそうで。関東では、ある程度、人間の障害のスパン内で液状化が発生するレベルの地震が発生するのか。


 で、ラストが、私自身が食らった熊本地震。地盤が強いところに住んでいるせいで、全然意識していなかったけど、熊本平野南部では、かなりの件数が起きているのだな。布田川断層帯沿いから緑川下流にかけての地域は、かなりの液状化被害が起きているのだな。地理院地図の地震直後の航空写真を見ると、田圃や学校のグラウンドに痕跡が見られる。
 阿蘇谷のカルデラ湖が存在した軟弱地盤や旧国道三号線沿いの帯状の被災地が特筆される。旧三号線・薩摩街道って、過去に白川が南流した自然堤防というのが地元の通説になっているが、本書では、河道跡の窪地がなく、地下水脈の延長があるのではないかと推測している。
 あとは、過去に砂利採取が行われた場所が、液状化の被害を受けているという指摘が興味深い。甲佐、御船、嘉島あたりの緑川中流域では、田圃などを掘り下げて砂利の採取がなされていた。その、跡地は埋め戻されて田圃や住宅になっているが、埋め戻して固まっていない地盤が液状化。緑川が平野に出るとことで、かなり広く行われていたようだ。
 地理院地図の1970年代の航空写真を見ると、確かに、あちこちで砂利の採取が行われていて、水田地帯の真ん中に巨大な池ができたりする。下の写真は、甲佐町最北端、吉田・芝原・五反の集落周辺。かなり大規模に掘り返されている。ここは偶然航空写真に写っているけど、情報が残っていない場所の方が多い、と。やべーな。



 海外では、ニュージーランドクライストチャーチ群発地震が紹介される。地震が起きるたびに、液状化によって、建物が沈み込んでいく。液状化の被災地は復旧不能で、放棄され、草地化しているってのが、日本の都市部と違うところだな。家を捨てた人々は、どこへ行ったのだろうか。



第2章 液状化現象とは何か

 第二章は、液状化のメカニズムとどんな被害が起きるか。
 土壌の粒子が大きからず小さからず、ちょうど砂くらいであること。地下水位が高いこと。強い揺れの三つがそろうと発生する。水によって、粒子の固結力が失われ、人間の体重も支えられなくなる。
 これによって、噴砂、建物の沈下、下水管のような地下構造物の浮上、土構造物の崩壊、側方流動による建物などの破壊、ライフラインの被害、斜めに傾いた家屋による健康被害などが発生する。
 あとは、液状化が発生した地震のリストが圧巻。どこでも、平野部では液状化が発生しうる。熊本でも、実際には考古学の発掘で意識的に探していれば、噴砂跡とか、検出できていたんじゃなかろうか。1619年の地震で崩壊した麦島城なんか、液状化の可能性が高そうだし。明治の熊本地震では、下通の周辺の白川旧河道で噴砂が発生していたりするという調査結果もあるのだよな。今度の地震では、中心市街地での噴砂は報告されていないけど。
 液状化が発生した土地は、また、液状化が発生する可能性がある。地盤の改良を行うか、あきらめて、そのたびに被害を甘受する必要がある、と。



第3章 液状化被害を受けやすい土地の見分け方+第5章

 第三章から第五章にかけては、液状化被害が起きやすい場所の見分け方。第三章が土地の成因別、第四章は識別に使える公開情報の紹介、第五章は地名を手掛かりに識別できるかを検討。
 土地の成因別としては、まず、比較的新しい造成地。特に戦後70年代あたりまでの造成地の危険度が高い。80年代以降の埋め立て地の被害が、それ以前のに比べてマシなのは、それだけ配慮されるようになったということなのだろうか。


 続いて、危険度が高いのは旧河道や旧沼地を造成したところ。地下水位が高く、地盤の固結も低い場所なので、当然、被害が多い。熊本地震でも、そういえば、目立ったな。関東大震災でも、古利根川や古隅田川沿いで、被害が発生。葛飾区と足立区の区境地域の亀有、綾瀬なんかは、かなり大規模な液状化が発生している。
 砂の運搬力の高い大河川、しかも、水害常襲地は、大量に砂が供給されているため、危険度が高い。旧版地形図で桑畑として利用されていたような土地で、被害が多い。歴史地震などの事例として、長野県の千曲川流域、名古屋平野、京都盆地南部の伏見や八幡周辺などが紹介される。


 砂といえば、当然砂丘も危険度が高い。砂丘の上部は、地下水から遠くてあまり起きないが、砂丘砂丘の間の谷間や内陸側辺縁などで、湧水が多い土地は、地下水位が高く、危険度が高い。土地を買うときは、湧水をチェックする。砂丘は、風によって淘汰された、非常に液状化が起きやすい粒径の砂が集積するが、波や海流の作用で砂が集まった「砂州」は、波による締固め作用や比較的粒径が大きいことから、液状化の可能性が低い。2000年の鳥取県西部地震の事例が挙げられているが、弓ヶ浜の砂州中心部は、本当に液状化被害が少ない。周囲の埋め立て地では、被害が起きているのを考えると、似ているようで、本当に差は大きいのだな。


 また、熊本地震の事例が紹介されているが、砂利や砂鉄を採取して、埋め戻した跡地の危険性も高い。九十九里浜の北部の千葉県旭市青森県三沢市、北海道長万部市などで、砂鉄採取跡地の液状化が発生している。なかなか、広範囲に行われていたのだな。一方、茨城県鹿島市神栖市では、砂利採取による液状化が発生。こういう土地では、地図データなどから、採取地を特定するのが難しいので、そのような地域では、旧来からの集落に土地を選ぶべきと、なかなか厳しい現実が。


 一見、液状化と無縁そうな丘陵地でも、谷埋め造成地は、危険度が高い。切り土造成地は安全だが、谷に盛り土をして作った造成地は、締め固めの不足と地下水位の高さから、危険度が高い。東日本大震災で仙台の多くの丘陵地で、こういう被害が起こったらしい。あとは、札幌の住宅地の激しい液状化が記憶に新しい。
 造成前の地形図と重ね合わせて、検証する必要がある、と。


 最後に、一度、液状化が発生した土地は、次の地震でも液状化する可能性が高い。液状化の既往が、最大の指標だと。そして、北海道森町の事例のように、一見、関わりがなさそうな土地でも、液状化が起きうるという話。地下水位が高い湧水が多い場所は、一応気にしておいた方が良いってことなのかね。岩屑なだれ地盤でも、起きるときは起きる。逆に、間を充填する砂の締まりが良くなかったりするのかねえ。


 関連して、第五章の地名の話も面白い。地下水位が高いことを示す地名として湿性植物がついた地名など。あるいは、新規の造成地を示す縁起やイメージの良い言葉をつけた地名。ここでは、「緑」や「美し」など。
 あとは、左室地盤であることを示す「砂」がついた地名、旧河道・自然堤防であることを示す「島」や「古川」「川久保」など。いろいろとあるものだ。



第4章 土地購入前にチェック

 この章は、ウェブなどで公開されている情報から、危険度を評価するために、各種マップが紹介されている。知らなかったけど、いろいろな地図情報が公開されているのだな。
 いろいろと参考になる。
 とりあえず、地形分類図にもいろいろある。1/5万国土基本調査に、土地履歴調査。あと、土地条件図に治水地形分類図。250メートルメッシュ微地形区分図は、地震ハザードステーションのサイトの地図で見られる、と。


disaportal.gsi.go.jp
www.kensetsu.metro.tokyo.jp
www.hrr.mlit.go.jp
www.j-shis.bosai.go.jp
https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1 地図・空中写真閲覧サービス



第6章以下

 第6章から先は、建築や土木の話。土地の地盤調査や液状化に対する地盤改良や建物の対応、被災後の修理や救済策など。まだまだ、液状化に対する金銭的補助は、弱い状況。拡充のためには、声を上げていかなくてはならない。
 しかしまあ、液状化対策にはお金がかかるものだ。それだけの金を支払うだけの価値のある土地なら良いけど。まず、液状化の調査が、スウェーデン式サウンディング調査や電気式静的コーン貫入試験、ボーリング調査など、15万円から70万円のコース。で、実際に家を建てるとなると、地盤の締め固め対策や基礎の工夫が必要。木材叩き込んで、地盤の密度を高める「丸太打設工法」が比較的安価な対策なのかね。あるいは地下水を排出したり、杭を打ち込んだり。対策をしても、ベタ基礎がぶっ壊れたり、杭ごともってかれるみたいな事態もあるようで、戸建ての小規模建築で、これは確実という対策はないそうだ。
 あとは、損壊時の補償や地震保険、品質保証など。対策して、半端な壊れ方をすると、今度は補助が出ないという恐怖もある訳か。難しい。
 地域全体での地盤改良なども。
 戸建てでできる対策は、復旧作業や軽度の被害には耐えられるべた基礎にする。敷地界から1メートルほどの工事用スペースを確保しておく。災害復旧の費用をまかなうために地震保険に入るか、あらかじめ費用を積み立てておくだそうで。なかなか厳しい。




 以下、メモ:
www.jaee.gr.jp
 153枚、1964年新潟地震直後の液状化被害の状況を撮した写真を、撮影者の解説付きで紹介するもの。

 液状化が起こらないと一般には考えられている丘陵地帯の造成地でも、谷埋め盛土部分で液状化が起こることがあります。このタイプの液状化被害は、2.7節でも紹介した四回の地震液状化した釧路市緑ヶ岡や、2003年十勝沖地震の際に札幌市清田区美しが丘などで見られました。清田区震源地から二五〇㎞も離れており、札幌市では震度四でした。住民の話では、この地区は地震前から地盤沈下がじわじわと進行していたようで、盛土の締固めが不十分だったり、盛土の下の粘性土層が圧密沈下を起こしていたと推測されます。p.151-2

 また、札幌市美しが丘では、3.6節で述べたように、二〇〇三年十勝沖地震の際に、震央から約二五〇㎞離れ、震度四と揺れが小さかったにもかかわらず、多数の住宅に深刻な液状化被害が発生しました。ここは支笏火山の火山山麓地で、液状化被害が発生した場所は、一九八七年ごろ宅地造成が行われた際に沢を埋めた盛土地盤であり、被害箇所は地形的に見ると「丘」とは言い難いところでした。p.191

 これは、2003年の十勝沖地震の時の話。同じ清田区で、場所も近接しているけど、北海道胆振東部地震で深刻な液状化被害が発生した場所とは違うんだよな。なんか、条件が違ったのだろうか。十勝沖地震の際の地盤災害の調査報告2003年十勝沖地震による地盤災害について - 土木学会を見ると、近接した場所ではあるが…


 熊本の液状化・地盤災害関連マップ
www.city.kumamoto.jp
www.city.kumamoto.jp
www.gsi.go.jp
大規模盛土造成地マップ / 熊本県
平成28年(2016年)熊本地震液状化調査報告(第1報)
平成28年熊本地震被害調査報告書 - 公益社団法人 土木学会西部支部