加藤理文『日本から城が消える:「城郭再建」がかかえる大問題』

日本から城が消える (歴史新書)

日本から城が消える (歴史新書)

 天守閣を含む近世城郭の建造物を改めて建てるには、現状、高い法的なハードルがあること。このため、現在、コンクリで建てられている再建天守が耐用年数を超えると、天守台が残るだけという状況になりかねないと。個人的には、それほど、再建する必要もないと思うのだけどね。コンクリ天守で何が悪いのかと。つーか、熊本城も再建しすぎだと思う今日この頃。
 なんか、読むのにすごく時間がかかった。法的な話は、やはりねえ。一方で、お城に興味がある人には必読の本かも。
 前半は、近代に入って、城郭がどう扱われてきたかの歴史。戦前の次々と破棄されていく中で、自腹で維持しようと努力した人々もいた。そして、第2次世界大戦が名古屋城広島城をはじめ、生き残っていた建物を一気に破壊した事情。戦後の天守閣再建の動き。観光振興やシンボルの再建という目的が先行し、とりあえずコンクリ建築の天守が各地で建つ。それから、経済的余裕ができるにしたがって、「本物志向」というか、調査研究を重ねた上で、当時の技術に基づく木造の「復元」という方向へ転換していく。
 あとは、城郭の建造物復元のための、事前調査や設計などの実務の話。
 観光資源として注目されることが、文化財としての城の遺構を傷めていく問題など。バリアフリー文化財保護の矛盾。石垣を保護するためには、樹木の伐採が必要という話も。ただ、熊本城に関して言えば、樹木が茂っている姿が、むしろ見慣れた姿だしなあとも思う。
 第5章がおもしろい。伊予松山城、熊本城、金沢城首里城の四事例の紹介。松山城への評価が高い。あと、金沢城も。熊本城に関しては、一口城主のアイデアは褒めつつも、観光利用へ前のめりな姿に批判的。まあ、そうだよなあ。首里城に関しては、往時の建物は全滅状態で、ほぼ完全に再現に微妙感を覚えている様子。熊本城で一番大事なのは石垣というのは、その通りだよなあ。
 個人的には、遺構の保全は重要だが、同時に近代に入って改変された姿も歴史の一部として重要と感じる。他の施設として利用されている状況で、無理して、往時の姿を再現する必要性があるのかなと。あと、名古屋城の木造復元とか、意味あるのかなと。コンクリ再建天守も、そろそろ歴史的価値が出てくる時期なのに。
 遺構の保護を考えると、炭素繊維強化炭素複合材料でめちゃくちゃ軽い再現建造物とかできないのかね。


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 熊本城、そのまま修理する予定のようだけど。あと、木材に関しては集成材か何かを使うしかなさそう。