『南極建築 1957-2016』

南極建築1957-2016 (LIXIL BOOKLET)

南極建築1957-2016 (LIXIL BOOKLET)

 LIXILギャラリーで開かれた展示会の図録。南極に建物を建てようとすると、どのような困難に直面するかという話。
 特に、限られた輸送能力が今も、昔もネック。南米大陸と近い南極半島ニュージーランドから航空輸送が利用できるロス海沿岸地域と比べると、昭和基地のある場所は南極大陸でも場末の土地。年一回の砕氷船の連絡のみなので、今も昔も輸送能力が劣る。ふじや二代のしらせならともかく、宗谷の時代は深刻だったと。
 そのため、部材がコンパクトに収納できて軽いこと。さらに、素人が建設できることが要求された。そこで、日本最初のプレファブ建築が設計されることになる。木製の枠組みにドイツ製の発泡スチロールを充填、両面は合板製という木質パネルを製造。それを金具で結合することで、分厚い手袋をしたままで作業できるようにした。
 個人スペースは二畳弱。建物間の通路は空き箱を積み上げて作った。当時の建物は、解体して持ち帰り、強度テストを行ったが、建築後40年たっても、充分な強度が残っていたとか。


 こうして、最初の課題をクリアした、昭和基地の建物は次の試練に直面する。
 建物が、ブリザードの風をさえぎり、巨大な吹き溜まりを作り出し、埋まってしまう。そうなると、凍結した雪から建物を掘り出すのは、重労働。吹き溜まりを作らない建物の追求が始まり、高床式で、床下を風で吹き払う建物が建てられるようになる。これも、長辺を風上に向けるか、短辺を風上に向けるかで一長一短あるとか。


 更に三階建てで集会所的な機能を持つ管理棟が1993年に、飛行機の翼のような断面で、太陽熱を暖房に使う自然エネルギー棟が建設。さらに、十二角形の基本観測棟が2018年完成予定と。


 内陸の基地も興味深い。昭和基地のある東オングル島は、夏場には岩が露出する場所だが、内陸では雪が積もり続け、建物は埋まっていく。日本の内陸基地、みずほ基地あすか基地ドームふじ基地などは、雪に埋まることを前提に、かなりの部分を雪洞にしている。しかし、雪洞は、徐々に変形していくので、使用不能になったり、掘りなおしを強いられる。本当に厳しい環境なのだな。
 ドイツの基地のように、雪が積もったら、その分、基礎を足すようにするしかないのかね。


 世界各国の基地も良い。目立つ必要があるからか、えらくカラフル。そして、だいたい吹き溜まりを作らないように高床式。日本でも最初に検討したときは、円形の建物が構想されたように、円形が風や吹き溜まりに、有効なのかね。円盤状の建物も。
 なんか、微生物にこんなのがいたよね的な、イギリスのハリー6基地が好き。


 現地で水を得る苦労や風力・太陽光などの自然エネルギーの話も興味深い。