NPO西山夘三記念すまい・まちづくり文庫『昭和の日本のすまい:西山夘三写真アーカイブズから』

 以前から気になっていた本を、コロナで図書館に行く頻度が落ちたこの機会に借り出す。建築学者西山夘三が、訪れた先で撮った写真をまとめた本。戦前から1970年代あたりまでの、日本の住居や都市空間の変化が描き出される。
 情報量が多くて見るのに時間がかかった。さらに、感想に着手するまでにも時間がかかっている。消化できていない感じがありありと。
 昭和30年代の各地の町並み写真に写っている看板の店が現在どうなっているか調べるとか、おもしろそうなんだけど、ちょっと返却期限的に無理だなあ。


 第一部は戦前編。昭和10年代の京都・大阪・東京などの景観や各地の町家、「不良住宅」問題などの写真が掲載されている。戦前から、東京ってのはスプロール化にさらされて、湿地などに質の悪い住宅が広がるような状況だったのだな。
 京都の町家が広がる中に、転々と銭湯の煙突が立ち並ぶ景観が興味深い。あと、東京では昭和10年代には、かなりトラックが目立つようになっていたのだな
 戦時中の住宅政策の写真が興味深い。軍需産業の移転などに伴う住宅の新規需要に対して、効率的な供給を目指したが、資源不足でだんだん切り詰められていった。木造のプレハブ住宅の実験や小さな住宅に人間を詰め込むような住宅の実験などが行われている。


 第二部は戦後の絶対的住宅難編ということで、昭和20-30年代を収録。
 空襲で焼け出された人々のバラック住居が興味深い。棟部分の処理が、常に最大の課題なんだな。いろいろな工夫が見られる。一方で解決が難しいなら、面の突き合わせ部が存在しない、片流れ式の屋根という選択肢もある、と。
 「応急復興住宅キット」なる資材だけで自分で組み立てる住宅キットが販売されたけど、相応の値段がして、購入できる人は限られたという。
 他にも、軍需工業や倉庫、兵舎など、敗戦に伴って必要がなくなった施設を住宅に転用したり、鉄道、バス、船などを住宅に転用したり。鉄道はともかくとして、バスは、4年程度で取り壊される短命な物が多かったのだとか。マイクロバス程度の車体だとそんな感じかなあ。少なくとも、平成13年の段階で、京都市電の車両を転用した住宅が残っていたというのが、驚き。
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 第三部は、復興近代化編、1950-60年ごろ。
 炭鉱住宅、社宅、公営住宅という形で、住宅が供給されるようになる。木造平屋から鉄筋コンクリの建物に移り変わっていく時代。水回りが、ずいぶん昔風というか。
 軍艦島の光景が4ページほど紹介されているが、子供の転落死が多そうな環境だなとか…
 あとは、河川敷などに出現した「不良住宅」。なんというか、アフリカのスラム街みたいなのがあったのね。熊本でも、白川の河川敷に人が住み着いて、それを解消するのに相当時間をかけたというが。
 農村や漁村の改善活動。
 そして、日本各地の町並みや農村の写真など。いろいろと調べたいところだけど、時間が。熊本市の写真は一枚だけ掲載。これ、どこか全然わからないなあ。一番手前に「三国屋」の看板があるから下通? 大洋デパートの上の方から撮影したのかな。


 最後が、高度成長の光と影編ということで、1960年以降。
 都市のスプロール化、木密地帯の出現。さまざまな木造賃貸住宅。設備共用タイプから個別の外階段方式の文化住宅など。3年で投資が回収できたというのも凄いな。どんだけ安普請だったんだろう。完全に貧困ビジネスだなあ。
 そして、その一つ上のグレードが郊外の建売住宅。それでも、賃貸より建て売りの方が良かったということか。しかし、田んぼの真ん中とか、湿地横とか、斜面とか、災害に脆弱そうなところが宅地化されている。道路の貧弱さも印象的。
 そして、同時代のもう一つの特徴的住宅地であるニュータウン。そして、マンション・高層住宅の発展。162ページの高級マンション、三田東急アパートの駐車場に並んでるのが高級車っぽい車ばっかりなのが凄いなあ。


 ラストは解説。生涯で30万枚の写真を残した。資料として、意図して大量の写真を撮ったという点では、宮本常一と似たような感じがあるな。しかも、農山漁村と都市部と補完関係にあるのがおもしろい。
 いろいろと整理しようとしていたが、追いつかなかったというあたりは宮本と違う感じだが。


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