宮本常一『宮本常一が撮った昭和の情景:上巻:昭和30年-昭和39年』

宮本常一が撮った昭和の情景 上巻

宮本常一が撮った昭和の情景 上巻

  • 発売日: 2009/06/09
  • メディア: 大型本
 これも、熊本博物館の宮本常一展関連読書。
 宮本常一が撮影した資料写真をまとめた本。上巻だけ借りたが、下巻は図書館が臨時休館で借りられない…


 1950年代というのは、日本人の生活環境が変わる端境期といった感じだな。農村地域の機械化や社会の産業化が本格的に進む直前。モーターリゼーションが始まる直前。伝統的な生活を反映した景観が残る最期の時期。あちこちに馬や牛が輸送手段として写っているのがおもしろい。一方で、130-131ページのガソリンスタンドの写真は、まさに時代の変わり目を映しているな。でも、ここも全体は草葺きの民家で、正面部分だけそれっぽく改築してあるだけ。火災が怖い。
 民家の屋根が、まだ草葺きだったり、板葺きだったりする時代。あと、商店の造形が、いかにもって感じでいいなあ。42-43ページの広島県豊田郡大崎上島町木江とか、48-49ページの茨城県稲敷市江戸崎の町並み写真がすごく良い。
 船も古い時代の客船だったり、漁船がことごとく木造だったり。港の護岸も石組みで、現在とはずいぶん風情が違う。佐賀県鹿島市浜町の浜川を写した128-9ページの写真が印象深い。石積み護岸、張り出した木造の建物、捨てられた蛎殻、木造の漁船がいっぱい。


 あとは、こういう記録写真を丹念に集めると、森林の荒廃と復活の姿が分かりそうだけど。


 巻末の撮影地の地図を見ると、宮本常一の行動の偏りも見えておもしろいな。東北・北海道・中部・北陸あたりの頻度は比較的少ない。特に、北海道は利尻島の写真はあるけど、北海道本島そのものはゼロ。
 関東から静岡にかけての沿岸、瀬戸内海中部、中九州あたりの頻度が多い。
 熊本も意外と来ているのだな。天草への頻度が比較的高いのは全国離島振興協議会関連の関心ということだろうか。
 熊本県関係では、118ページの白川の河原や152ページの球磨川の橋の下に造られた住居が興味深い。あとは、116ページの御船町の見事な農家とか。
 蘇陽峡の竹細工の人の写真は、熊本博物館の展示にもあったような。谷底に住む人々が台地上に耕地を切り開くようになったという解説があるが、70年代と現在の航空写真を見比べると、台地上の耕地の放棄され方が印象的。