熊本博物館「未来へつなぐ植物の記録:令和二年七月豪雨で被災した前原勘次郎の植物標本」

 昨年の球磨川大水害で、人吉城歴史館に収蔵されていた前原勘次郎が作成した植物標本群が浸水被害を受けた。その文化財レスキューの報告と古い植物標本の意義を解説する特別展。
 しかし、この手の収蔵施設は川の近くに作っちゃいけないというのが教訓だな。川崎市市民ミュージアムといい。


 教員のかたわら、植物採集をつづけ、『南肥植物誌』を作成するなど熊本県南部の植物相の解明に貢献。多くの新種を発見、献名されている人。古いものでは1920年代、およそ100年前の標本も含まれる。
 これらの標本は、その後、人間が里山から資源を採取しなくなって草原が消失した結果、今は見られなくなった植物や乱獲で激減した植物が、球磨郡周辺で確かに生息していたことを示す貴重な証拠となっている。
 また、普通種でも、継続的に多数の標本を採集保存していくことで、経時的な変化や多様性が解明できる。


 被災した標本は、棚が浮いてほとんど浸水もしていないものから、泥を被ったもの、カビやバクテリアで標本そのものに痛みが出たものなど、その破損状況は様々。搬出、冷凍保管後、各地の大学や自然史系博物館で手分けしてクリーニング作業を行っている。
 まず、包んでいる新聞紙を剥がすときに、標本を傷めないようにしないといけない。そこから、泥の除去洗浄、カビの除去などの後、乾燥作業を行う。なかなかにデリケートな作業。外れた植物体、台紙、包み紙の新聞紙も保存対象ということは、加速度的に保存物品が増えるってことだよなあ。