熊本博物館「立田山:身近な自然の魅力」

 うーむ、メモを取るのが順調に遅れまくっている。
 二階の特別展示室3室中、一室を使った比較的小規模な展示。金峰山山系の一部である立田山ができた経緯を紹介する地質セクション、航空写真や古い地図で戦後の立田山の自然環境を紹介する歴史セクション、動物の剥製、昆虫標本、魚類標本、植物の標本によって立田山の生物相を紹介する生物セクションの構成。


 最初は地質セクション。140万年から110万年前に活動した古期の活動の一環として形成された。凝灰角礫岩や火山灰質の砂層が観察採集できて、標本が展示されている。西側には阿蘇火砕流の堆積物が乗る、と。
 その後、立田山山塊は西側の金峰山本体と切り離されているが、これは立田山断層による沈降の結果なのかな。だとすると、百万年くらいでけっこう沈下している感じだなあ。
 とりあえず、紹介されている文献を発見。土志田潔、宇津浩三、内海茂「熊本金峰山のK-Ar年代」『日本火山学会講演予稿集』2002https://www.jstage.jst.go.jp/article/vsj/2002.2/0/2002.2_179/_article/-char/ja/
 他に、このサイトも。熊本県:金峰山と立田山の火山地形
 土志田潔他「金峰火山のK-Ar年代」『火山』第51巻1号、2006https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/51/1/51_KJ00004225296/_article/-char/ja/


 歴史セクションは大正時代の地形図と国土地理院の航空写真による立田山の経年変化を明らかにする。地理院地図の航空写真では立田山全体の航空写真が掲載されていないので、興味深い。
 1926年の地形図の植生表記だと、大半が針葉樹か広葉樹の樹林で、万石谷や兎谷などでは水田。現在の陣内立田の杜は畑。そのしたの阿蘇三宮神社あたりには桑畑があって、万石谷の分岐部には茶畑が広がっていた。しかし、こうして地図で見ると、陣内立田の杜って、地すべり地形なんじゃ。
 1948年の航空写真が印象深い。木材の過剰採取や松根油採取などで、地山が見える完全にはげ山状態。70-80年程度前には、今からは想像も付かないような姿だったのだな。それが徐々に植生が復活。しかし、宅地開発が進み、せっかく復活した森林が失われる可能性が出てきて、市が買収、公園化した。岩倉山とか、北バイパスの東側の宅地開発はびっくりする感じだよなあ。
 あと、細かく時系列的に航空写真が展示されると、立田口駅の東などの麓の宅地化の進行具合も見えておもしろい。2012年の水害で被害を受けた龍田陳内4丁目あたりは比較的早く造成されているのが気になるところ。





 最後は生物セクション。
 植物とか、昆虫とか、魚類、本当に分からないんだよなあ。とりあえず、生物相が都市の中では豊かなのは分かる。一方で、外来種の侵入で、もともとの生物相が危機的状況にある姿。
 鳥類とか、大型哺乳類なら、なんとなくわかるけど。やはり、ここしばらくのトピックはイノシシ。万石谷のトンボ池にヌタ場があるのに気づいたのは2018年だったけど、その5年前には入っていたのか。本格的に箱罠による駆除が行われていて、減少傾向にあるそうだけど、逆に言えば箱罠にかからない頭の良い個体は、資源を巡る競争相手が減るって話だからなあ。
 大型動物の剥製標本が興味深いかな。
 アナグマの標本、来歴がラベルで残ってるのが興味深い。1985年に捕獲されて熊大教育学部に所蔵されていた剥製が、1994年に熊本博物館に譲渡されて、この展示会に出展されているという。台座の簡素さから、もっと古い時代かと思ってた。とはいえ、もう40年ほど前の標本なのな。



 ニホンジカ。キャンプションによれば、2016年ごろから目撃されるようになって、3頭捕獲されているとか。白川河川敷経由で入ってきているようで、定着するのも時間の問題かもという。立田山の環境に与える影響は、植物食に特化した鹿のほうが大きいだろうなあ。一方で、人間との共存という観点では、鹿のほうがやりやすかったりして。





 金峰山で検索をかけると、奈良の金峰山(きんぶせん)以下、各地に同名の山があって、なかなかにノイズが多い。




 県市連携展示室では、熊本地盤研究会の成果紹介が。熊本平野って、断層で沈降しているから、化石がありそうなところが少ないわけか。しかし、何年かけて、熊本平野って沈降しているんだろうな。なかなか深くまで沈んでるわけだけど。
 出版物メモ。2番目は手に入りやすそうだけど、お値段がなあ。
熊本地盤研究会編『熊本周辺の地質断面図』2010
熊本地盤研究会編『熊本地域の地質断面図:地下地質と熊本地震』2019
長谷義隆他「熊本地域の水理地質構成とその地史的背景」嶋田純・上野眞也編『熊本大学政創研叢書9:持続可能な地下水利用に向けた挑戦』成文堂、2016、pp.9-32
長谷義隆「熊本平野南部、沖積層下に認められる砥川溶岩の変位」『御所浦白亜紀資料館報』第17号、2016,pp.5-13
荒牧昭二郎「熊本県八代平野の地質構成と地質構造」『御所浦白亜紀資料館報』第23号、2022、pp。23-35