R.H.キールナン『秘境アラビア探検史 上巻』

秘境アラビア探検史〈上巻〉 (りぶらりあ選書)

秘境アラビア探検史〈上巻〉 (りぶらりあ選書)

著者の中世アラビアの学問に対する過剰な軽蔑感を除けば、非常におもしろい本。古代から19世紀までの、アラビア半島の地理情報がどのようにヨーロッパに紹介されてきたかを通観している。
ただ、この手の問題を扱うときの問題は、書物の形で現在に遺された情報は非常にわずかで、大半がその地域を行動範囲にしていた人々(商人や軍人、奴隷など)から外に出てこなかったこと。その地域で活動していた人々が、近代的な地理学や地図に落とし込みやすい形でその土地周辺を認識していたわけではないことだろう。政治状況が許せば、特定の道・関係者を介せば、周辺の地勢について詳細な知識がなくても、行き来できたのだろう。
その意味で、本書に集められた情報はごく一部でしかなく、またその解釈については少々近代主義的かもしれない。


参照文献は、下巻に収録されているので使いにくいが、中世以降の章で使用された情報源は、

  • ウースターのセーウルフ(1102年頃)サー・レーモンド・ビーズレー『近代地理学の黎明』ロンドン、1987-1906
  • アブー・ザイド、イブン・フールダドビー、イスタフリ、イブン・ハウカル、マスウーディー、ツデラのベンジャミン、アブールフィダー、イドリーシー
  • イブン・バトゥータ
  • ペドロ・ダ・コヴィラム(ポルトガルが派遣した密偵
  • ルドヴィコ・ディ・ヴァルテマ(16世紀初頭の旅行家)
  • 『大アルフォンソ・ダ・アルブケルケの註釈』
  • 『ジョン・ジュルディーンの日記』1604英東インド会社船のアデン・紅海周辺航海の記録。ウィリアム・レベット
  • ジョセフ・ピット『マホメット教徒の信仰と習慣の真実の物語』17世紀後半に奴隷としてアラビア半島に入った人物
  • カールステン・ニーブール