園田義明『最新・アメリカの政治地図:地政学と人脈で読む国際関係』

最新アメリカの政治地図 (講談社現代新書)

最新アメリカの政治地図 (講談社現代新書)

 人脈の観点からアメリカの政治や米欧関係について解説したもの。出版が2004年、2008年の現在、ブッシュ政権の死にたいかと金融危機EU統合に対する反作用の顕在化、中国の現政体の持続不可能性などの動きと合わせて考えるとおもしろい。しかし、どこまで信用できるのかな、これは。特に後半。
 90年代後半に、盛んに日本はクローニーキャピタリズムだと批判されたが、アメリカの方がよっぽどクローニーだろう。政治家・上級官僚・企業家・学者が一体化したエスタブリッシュメント階層の存在はあまり健全とはいえないのではないか。むしろアメリカのコネの重要性は日本のそれより大きいかもしれない。まあ、日本の官僚、政治家、財界のキャリアの分裂は、それはそれで現在の迷走状態をうんでいるような気もするが。
 また、ヨーロッパを中心とする「グローバル・ビジネス・リアリスト」を高く評価するが、実際のところどうだろう。アレはアレで、世界中に迷惑を撒き散らしているような気も。ヨーロッパ内のエスタブリッシュメントではあるのだろうけど、それに対する強力な反作用は存在するのだし。また、本書で取り上げられているヨーロッパの人脈に、ドイツの影が薄いのが気になる。あと、このあたりの19世紀あたりから続いてそうな、英仏低地地方の金融資本家層にドイツの影が薄いことが、日独が依然として工業生産に強くて、英仏あたりが工業生産に弱い理由の一つなのかもしれないなとも思う。
 日本企業と欧米の人脈についても取り上げられているが、194ページの「持続可能な発展のための世界経済人会議」参加企業が興味深い。金融、建設、サービス、重厚長大系工業関係の企業の影が薄い。輸出企業の影響力というか、立場が良く分かるというべきか、日本の旧体制に属する企業が内向きすぎるあるいは弱すぎるというべきか。
 しかし、本書を読んでからザ・チルドレンズ・インベスト・マスター・ファンドの電源開発株買い増し問題を考えるとおもしろい。つまり、これは「グローバル・ビジネス・リアリスト」を日本の政府が拒否したということか。

本当に怒らせてはいけない相手は、最長でも八年に過ぎないブッシュ政権ではなく、移行を推進する米・欧にまたがる一握りの集団であることはもはや常識の範疇である。p251

とあるが、電源開発の件は、そいつらを敵に回したということにならないかw
個人的には、南米あたりでの水道事業を巡る欧米企業の所業を考えると、ライフライン系の企業に欧米の多国籍企業の影響力が増すのは好ましくないと思う。まあ、過大な需給予測で無駄なダム開発やってバカ高い水道とか、原発に突っ込みすぎな電力業界など、現状の運営も決してまともな運営とは言えないのだが…


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 建前も建前。当事者が批判に対して自己を正当化するための論理だな。
 個人的には、社外取締役は、日本の株式持合いと同じような存在だと思っている。むしろ、個人的な利益供与の側面が強い分問題かも。実利的な側面としては、情報伝達機能や行政・他社との交渉の円滑化、規制のお目こぼしなんかだろう。