盛本昌広『軍需物資から見た戦国合戦』

軍需物資から見た戦国合戦 (新書y)

軍需物資から見た戦国合戦 (新書y)

 主に北条氏の史料から、軍需用の木材を巡ってどのような関係を森林と取り結んだのかを追求した書物。最近の、環境・天然資源に注目する流れに棹差した一冊。企画段階での書名は『森林資源と戦国大名』だったと見た。
 第一章から第三章にかけては、戦争にどんな木材が必要とされたのかを明らかにする。陣地や城の構築、舟橋、攻城用の資材、軍船、旗ざおや槍の柄、松明などなど、戦には膨大かつ多様な木材が必要とされる。また、それらがどこから、そのように集められたかも明らかにする。
 後半の二章は、戦国大名を中心の森林資源の管理について明らかにする。各種木材の徴発を朱印状によってしか行なわないことで、無秩序な森林資源の利用の抑制、地域による抵抗、「立山」「立野」による資源利用者の制限など。熊本県阿蘇にも「立野」と言う地名があるが、これも森林資源の管理と関係があるのだろうか。最後は、寺社などを中心とする植林の活動について。中世には植林はなかったとする通説(?)を批判する。
 最後に、これらの資源保護にもかかわらず、戦争に伴う消費で森林資源は枯渇しつつあり、それに伴う植生の破壊と洪水などの災害の拡大、土壌流出による堆積活動の進行と地形の変化が指摘される。
 参考文献を見ると、著者は90年代前半から、森林資源をテーマに研究を続けていたようだ。それが、門外漢にも手をとりやすい形で公表されたのは喜ばしい。ただ、主要な情報源がほぼ北条氏領国に限られていて、「戦国合戦」は少し大きく出すぎたような気がする。個人的には、非常におもしろいが、こんな意見もあったりする。ないものねだりのように思うが、表題が罪作りだよな。