「狩猟動物 貴重な収入源:明治初期の人吉球磨――森林総研が記録分析:肉、毛皮、薬の原料…うまく利用」『熊日新聞』10/4/28

 林野庁所管の独立行政法人森林総合研究所」九州支所(熊本市)の安田雅俊主任研究員らが、明治初期の人吉球磨地方の狩猟状況などを当時の記録から分析し、森林保全の専門誌に発表した。論文からは、食べるためだけではなく、薬の原料や毛皮として利用する目的でシカやイノシシなどを狩っていた住民の姿が浮かび上がる。安田さんは「安い医薬品や衣料が普及するにつれて捕獲する意味合いが薄れたことが、近年問題化しているシカ急増の原因の一つになっている可能性がある」と指摘する。


 調査の基になった資料は、1875年の人吉球磨地域(現在の人吉市球磨郡)のさまざまな情勢を記した「肥後国求麻郡村誌」。安田さんらはイノシシやシカ、サルなど哺乳類6種についての記録を洗い出し、当時の(1)分布(2)年間捕獲数(3)肉や毛皮、猪胆(胃腸の民間薬として利用されていたイノシシの胆のう)の金銭的価値―などを分析した。
 その結果、推定年間捕獲数はイノシシ146頭、シカ105頭。現在の物価水準に換算した1頭の価値はイノシシ2万2500円、シカ7800円に相当し、住民にとって貴重な現金収入源だったことが分かった。特に猪胆は重宝され、場合によっては肉全量よりも高く売れていたという。
 九州ではイノシシやサルの脳、シカの胎児なども薬の原料として利用されていたとされており、「野生動物の捕獲は肉を食べるだけでなく、毛皮や薬の原料入手という目的があった」と結論付けた。
 安田さんは「シカを減らして農林業や生態系への被害を防止するためには、単に駆除するだけではなく、うまく利用する方法を考えることが大切ではないか」と話している。
                                     (久間孝志)

安田雅俊・近藤洋史「明治初期の熊本県南部における野生哺乳類の生息,狩猟および被害の分布」『森林防疫』59-2、2010 これかな?
 薬の原料として内臓が高く売れたというのが興味深い。現在でも漢方薬の原料として、中国あたりに売れないだろうか。虎やサイなんかは、がんがん密猟されているわけだが。
 あと、今後利用拡大のためには、効率的に捕獲する方法を考える必要がありそう。肉だけでなく、毛皮や内臓も利用するつもりなら、全部持って帰ってこなければならないわけで。