佐藤建吉『ブルネルの偉大なる挑戦:時代を超えたエンジニア』

ブルネルの偉大なる挑戦―時代を超えたエンジニア

ブルネルの偉大なる挑戦―時代を超えたエンジニア

 19世紀に鉄道や蒸気船、交通インフラなどで大きな足跡を残したイサンバード・キングダム・ブルネルを紹介した書物。
 2002年の『偉大な英国人100人』の2位に入るほどの人物だが、日本では知名度が低いのでこういう本が出るのは歓迎できる。かく言う私も、この投票で初めて知って、それでDictionary of National Biographyを引いたんだよな。その後、汽船とか鉄道の歴史でちょくちょく名前に当たるようになって気になっていた。ただ、本書は、いまいち工学に偏っているというか、なんか読みにくいというか。平易な本なんだけど、なんか、こう。技術的な部分ではよくわからないところもあるし。
 あと、ブルネルのエンジニア・スピリットに学べという本書の趣旨には疑問を感じる。当時と現在では、科学や技術の在り方がまるっきり変わっているわけで、単純に往時を振り返るだけでは済まないのではないか。まして、ブルネルにはマッド・サイエンティストっぽいところも結構あるし。
 内容としては、ブルネルの業績を中心に紹介。グレート・ウェスタン鉄道や三隻の蒸気船、パディントン駅や橋などの建設事業など。興味深いのは、ガス機関やそれを応用した大気圧鉄道などの研究。どちらかと言うと土木系の人だと思っていたので。ただ、これらも失敗しているので、機械はあんまり得意じゃなかったのかなとも感じる。


 以下、メモ:

 ポーツマスは、父マークにとって、イギリスに来て始めて成功を収めた記念すべき土地であった。当時の軍艦(フリゲート)は帆船で大量にプーリー(ブロックともいい、帆を張る滑車)を必要とした。マークは、プーリーの製造に100人の熟練工を要する仕事を10人の未熟練工が20工程でこなす大量生産システムを発明した(1801年)。p.21

 これはハウンシェルの『アメリカン・システムから大量生産へ』でも紹介されていた話だな。結局、後が続かなかったみたいだけど。

 ブルネルは突き進んだら引き返すことができない性格的な欠点もあったが、技術革新については事実上の提案者であった。グレート・イースタン号のプロペラ会社のカルドウェル(Caldwell)は、同僚としてのブルネルについて、「彼は、創造と革新のための行動を、最終的な経済的到達点よりも重要なものと考えている」と評した。p.133

 現代ではこれは迷惑な性格なのではないだろうか。当時でも、ブルネルに泣かされた出資者は結構いそうな感じがする。まあ、この手の暴走タイプキャラだからこその成果だし、評価されるのだろうけど。