綾部恒雄・飯野正子編著『カナダを知るための60章』

カナダを知るための60章 エリア・スタディーズ

カナダを知るための60章 エリア・スタディーズ

 明石書店から出ている世界各国の紹介本の一冊。下山晃『毛皮と皮革の文明史』で言及されていたハロルド・A・イニスとステープル理論について興味を持って借りてみたのだが、当該部分はごくあっさりとした言及のみ。その点では、期待はずれだった。
 本書はカナダの地理・歴史・社会・文化など広い範囲を採り上げているが、カナダの成立とその歴史というのはなかなかおもしろい。フランス人植民者とイギリス人植民者の対立、フランス植民地のイギリス領への併合、アメリカの独立とその攻撃。改めてみると、カナダが独立国として存続しているのが不思議なくらい。その歴史の結果としてのフランス語系と英語系の二重構造がカナダを興味深い存在にしている。

 狩猟・漁労活動以外の経済活動に目をむけると、準州政府関係の仕事が1900あまりあり、全体の40パーセント近くに達している。この他、鉱物の採掘現場や建設現場、サービス部門で働いているイヌイットもいる。1970年代の後半まではホッキョクキツネやアザラシの毛皮の交易はイヌイットにとっては重要な現金収入源であったが、欧米における毛皮市場の崩壊によって現在では停滞している。p.184

毛皮関連。

だが、国民国家の統合という大前提のなかで多民族間の平等を達成することはなまやさしいことではない。各民族集団のエスニシティは、そのアイデンティティが強ければ強いほどナショナリズムに転化しやすいという性格をもっている。アメリカ合衆国では、1991年から92年にかけて行われた、コロンビア大学歴史学者ダイアン・ラヴィッチとテンプル大学アフリカ系アメリカ人研究者モレフィ・K・アサンテの論争がよく知られている。ラヴィッチはアメリカでは多文化主義が今やアメリカ社会をまとめる原理として広く認められていると指摘し、「アメリカのユニークさは、下位文化(各民族集団文化、筆者註)の相互作用によって共同文化が形成」されていることであり、これはこの国の貴重な資源である述べ、こうした共通文化を認めない多文化主義は、アメリカを崩壊に導く危険思想であると鋭く批判している。これに対し、黒人のアサンテは、ラヴィッチのいうアメリカの共通文化とは白人中心主義の代名詞であり、白人の支配と覇権を多文化主義のなかで正当化しようとするものと鋭く反論している。ラヴィッチのいうアメリカの共通文化が白人中心主義だというアサンテの批判は当たっているが、他方、アサンテの主張の行きつく先はアフリカ中心主義であり、アメリカを構成する多数の民族集団が、それぞれの文化を強く押し出すことは、国民国家を崩壊に導く危険性をはらんでいることはいうまでもない。p.192-3


 カナダには17万5000団体の市民社会組織があるとされる。15歳以上の人口の半分に当たる1200万人に人々は何らかの市民社会組織に属し(そのうち40パーセントは複数に所属)、650万人がボランティアとして活動に参加し、130万人が市民社会組織に雇用されている。寄付をする人は2200万(15歳以上人口の90パーセント)に達する。カナダの市民社会組織の年間活動費の総額は900億カナダドルにのぼると言われる。p.225

 このあたりの一般的な社会の組織化に関して、日本はかなり低い状態にあるように思う。それが、今後問題になってくるだろうな。