鎌田浩毅『火山噴火:予知と減災を考える』

火山噴火―予知と減災を考える (岩波新書)

火山噴火―予知と減災を考える (岩波新書)

 非常に読みやすい本。高校か中学の理科の知識があれば、問題なく読めるのではないだろうか。火山とは何か、火山に対してどのような心構えで対すべきか、減災について、基本的な知識を得ることができる。
 第1章が火山噴出物の分類、第2章が噴火の様式、、第3章が噴火の前兆現象、第4章が減災、第5章が火山と向き合う心構えについて。自分の知識がけっこうあやふやなものだったと気づかされた。あと、結局、災害に関しては、あらかじめしっかり調べておいて、いち早く危険を避けるということしかないのだなと思った。そういう意味で、ハザードマップは重要だなと。
 あと、「災害は短く、恵みは長い」という意見も興味深い。確かに、火山が存在することの恩恵は大きいのだろうし、一般的な火山の噴火に関してはそう言っていいのだろうな。「破局噴火」みたいなのが起きれば、「災害は短い」とはとても言い難いし、過去の大造山活動なんかを考えると、本当にそうか?とは思わなくもないが。気候的にも、地質的にも、非常に安定した希有な時代に生きているのだなと感じる。

 火山が爆発を起こす際には、空震と呼ばれる現象が起きる。いろいろな周波数で空気が振動するのだが、耳で聞こえる周波数の部分が爆発音として伝わる。空震は何百キロメートル先でも観測されることがある。p.70

 今年の霧島山の噴火のときには、熊本市の私の家でも、長い間窓がガタガタと音をたてて、何事かと思った。

 岩手山で1995年、火山性微動が始まった。1998年には火山性地震が頻繁に起こり、地殻変動が観測されるようになった。このため、岩手山火山防災検討会がつくられ、大学、県、市町村などの防災担当者のネットワークができた。
 この年、岩手山の浅部にマグマが貫入し、これに対応して岩手山の入山規制が敷かれた。しかし、噴火には至ることはなく、地熱活動が継続しただけで、マグマそのものの動きは沈静化した。火山活動が軽微であったにもかかわらず、研究者と行政や市民の連携という点では、ほぼ完璧な体制ができていたのである。
 ところがこの間に、風評被害によって岩手山周辺への観光客が減り、ペンション経営者などが打撃を受けるという事態が起きていた。防災体制の整備とはまったく別個に生じた思わぬ問題だった。1998年の一年間だけで18万人以上の観光客が減少したと推計され、被害総額は160億円程度と試算されている(岩手県立大学の調査)。
 言うまでもなく風評被害をつくり出したのは、火山をかかえる地元の住民ではなく、噴火の知識をもたない遠方の人たちである。正しく火山を理解し最新の情報を得さえすれば、風評被害はそれほど大きくはならないのである。p.170-1

 うーん、どうなんだろう。観光客の立場からすれば、入山規制が出ている場所に、わざわざ観光に行くということ自体が不自然なのではないだろうか。観光客というのは、土地勘のない、災害弱者なわけで、リスク回避としては当然の行動なのではないだろうか。まったくのデマならともかく、こういうのを風評被害といってしまうのは疑問がある。