山と渓谷社編『ドキュメント御嶽山大噴火』

 噴火から10日目までの推移を時系列にまとめ、間近で被災した人々の体験談、火山学などの観点からの寄稿、救助に関わった関係者へのインタビューで構成された本。さらっとまとめられていて、掘り下げが足りないような感もあるが。噴火から1時間以内に対策本部は立ち上がっているが、人やヘリが動き出すのは、1時間半から2時間後か。あと、県と前線となった市町村の情報の連携とか、DMATをどこに配置するのが効果的かといった教訓も汲み取れる。
 第二章は、山岳雑誌の伝手を使って、寄稿を依頼したのだろうけど、なかなか衝撃的。ここで寄稿している人々は、山に慣れているためか、最初の噴火をやり過ごした後は、最短ルートを使い、猛スピードで動いて、早々に下山している。山に慣れていない人だと、そもそも、登山道から外れるのが難しいだろうなと。あと、噴石があたって翌日まで記憶がないと書いている人もいるが、その状況で山小屋までたどり着いているのがすごいな。よっぽど、体に染み付いているのか。
 第三章は、信州大学の火山防災に関係する教官の寄稿。御嶽山の噴火の履歴の紹介や事前の「御嶽山火山噴火緊急減災対策砂防計画」というのが策定されていて、ある意味、その予測の枠内での災害であったことなど。成層火山は、高さに相応した、比較的新しい時代に活動した活火山であることを頭においておくべきとか、水蒸気噴火はガスと火山灰が相手で情報が残りにくいため研究の蓄積が難しいとか、ハードの対策はあくまで減災にすぎないとか。159ページの写真を見ると、溶岩流が流れて形成された山なんだなというのが良くわかる。
 第四章は、自衛隊、警察、消防、DMAT、山小屋、それぞれの関係者に取材した記事。最後の、災害リスク心理学の学者の「サバイバーズ・ギルト」が興味深い。災害時、「ああすれば○○は死ななかった」など、たらればで自責の念にかられる「サバイバーズ・ギルト」が普遍的にみられること。これに対し、PTSDのような明らかに病的な影響が出てこない限り、積極的な医療的介入は行なわないという。客観的に整理して、徐々に立ち直っていく方向にサポートするという考え方は、金菱清『震災メメントモリ』で「記録筆記法」が有効であるとする指摘と一致するな。言語化して、納得する過程をサポートする意味で。しかし、被災者に無思慮な言葉をかける人間多いんだな…


 以下、メモ:

【7:00ころ】木曽町役場を訪れた安否不明者の家族が「搬送した人の衣服の写真を見せるぐらいの情報提供があってもいいのでは」と話す。「もっと多くの情報を知りたい。なにがわかったのか、さっぱりわからない。なぜ教えてくれないのか」「早く捜索を進めてほしい」という家族もいた。p.42

【14:20】長野県災害対策本部がヘリでの捜索・救助活動中止を決定。ただし木曽町役場の災害対策本部には知らされず、約四十分後、テレビなどの報道を通じて知ったという。

 このあたりの、安否不明者家族への情報提供や県と町の対策本部間の連携などは、今後の課題になるのかな。

 女人堂を過ぎて八合目半あたりまで来たときに、雲とガスが抜けて前方の稜線がぼんやり見え始めました。そしてすぐに目の前が晴れわたり、紅葉に彩られた御嶽山の山肌と青空が現われたんです。時刻は十一時十分。通常はありえない光景なんですよ。ガスは時間の経過とともに上昇していき、上部は雲に閉ざされることが多いですからね。そのときは「近年の異常気象のせいで晴れたのか」と思い、好天のチャンスに感謝しました。「地熱が上がったことで山頂部の気温が上昇し、昇ってきた山麓からの暖かく湿った空気が飽和され、青空が現われた」とは、考えもしませんでした。
 その先、九合目に向かう登りが始まったあたりで、地下水の流れる音が聞こえてきて、卵の腐ったような臭いがしてきました。あたりに沢もないので「おかしいなあ」と思いましたが、「この夏はずっと天気が悪かったので、そのせいでこんな上のほうにまで伏流水が流れているのか。硫化水素の臭いは、王滝頂上付近の地獄谷からの臭気が風に乗ってきたのかな」と考えました。天候が回復してきていたので、いいように考えてしまったんですね。噴火の予兆ともいえる異変に、このとき気づくべきでしたよね。p.127-8

 噴火の予兆はあったってことなのかね。単純に、後付でそういう風に記憶が整理されただけの可能性もあるが。

 一九二六年五月に起きた十勝岳の噴火では、火口丘が崩れたことによって岩屑雪崩が発生し、短時間のうちに二〇キロ以上も離れた上富良野市街にまで巨大な泥流が押し寄せて一四四人もの死者や行方不明者を出す大災害となった。これまでにいちばん大きな火山災害(被害)をもたらしたのがこの十勝岳の噴火であり、今回の御嶽山の噴火ではこれに次ぐ被害を出すことになってしまった(ちなみに作家・三浦綾子の『泥流地帯』は、十勝岳の噴火を題材にした小説である)。p.165

 こわっ
 火砕流岩屑雪崩は、スピードが速いだけに脅威だな。
 この災害の実績を基にした防災マップが作られているけど、他の谷で泥流が発生した場合は、間違った方向に誘導することになってしまわないだろうか。