巽好幸『地震と噴火は必ず起こる:大変動列島に住むということ』

地震と噴火は必ず起こる―大変動列島に住むということ (新潮選書)

地震と噴火は必ず起こる―大変動列島に住むということ (新潮選書)

 御嶽山噴火で、火山に興味を持って借りてみた。小規模な噴火である、水蒸気爆発に関してはほとんど言及なし。むしろ、破局噴火の危険性を強調している。確かに、本書の紹介するパーセンテージは意外と高い。火山の知識は、ずいぶん前の高校地学どまりなので、知識のブラッシュアップにはなった。
 日本列島の環境や資源が、大変動帯であることに由来するもので、日本列島で生きていく以上は、それと戦う覚悟が必要だと。プレートの形成と移動、プレート沈み込み帯近辺でなぜ火山が多いのかとか、プレート地震のメカニズムなど。プレート境界の地震は割合単純なメカニズムだけど、火山のほうはけっこう複雑なんだな。高校では、地学を選択したけど、ここまで習わなかったような。それ以後に研究が進んだのかね。あと、安山岩とか、流紋岩とかの粘性がいつまでたっても覚えられない。
 明石の鯛がおいしいのはなぜかというのにも、地質がしっかりかかわっているのが興味深い。淡路島が蓋になって、東西で潮位差ができる。さらにエサとなる甲殻類が生息する砂地の材料が、山陽地方花崗岩から供給されているなど。あとは、付加体の石灰岩がセメントの材料になって、自給可能になっているとか。
 54ページの図も興味深い。M6-7の地震が、東北から北海道の太平洋側で、非常に多数にのぼる。地震リスクが、東北では高いと。宮城県沖での地震は30年に一回の頻度だったっけ。


 第二章はプレートの運動とそれに伴う地質活動。玄武岩質の地殻物質と橄欖岩質のマントル物質の境界であるモホ面とリソスフェアとアセノスフェアの境界であるプレート境界は違うこと。後者は、マントル物質である橄欖岩が、圧力と粘性が異なる状態になることで形成される。一枚板であるプレートの引っ張りによって地殻は形成され、沈んでいくとか。習ったことがあるような、ないような。フィリピン海プレートは新しく熱いのでなかなか沈み込まないが、太平洋プレートは古いため冷たくて重く沈み込みの角度が大きい。これらの差が、東西日本の地質構造や地震・火山の様態に影響を与えていると。
 火山噴火のメカニズムの解説がおもしろい。地質現象における、水の影響の大きさ。
 プレートの潜り込みにともなって、地殻物質に圧力がかかり、物質の構造が変化し、水が放出される。その深さは、110キロと170キロ。東北地方では、この深さに対応して火山列が二列形成されている。水は橄欖石の結晶構造を破壊し、融解させる。水の作用によって部分溶融したマントル物質は、ダイアピルという球状の構造を作って上昇しようとする。また、沈み込むプレートは、マントルを押しのけ、上昇させる。その湧き上がってくるマントル物質は、「熱い指」と呼ばれるような、形で上昇する。これが、ダイアピルを加熱し、溶融物質を上昇させる熱源となる。こうして、上昇してきたマグマは、マグマ溜まりの圧力を上昇させ、地殻にひびを入れる。これによって、マグマ溜まりの圧力が減少すると、水蒸気が気化し、急激に発泡する。これが、爆発的な噴火の原因になるという。一方で、水分の含有量が少ない海嶺やホットスポットのマグマは、水分が少なく、爆発的な噴火をしないという。ハワイやアイスランドの火山が、ドロドロと溶岩を流すのは、水分が少ないということもあるようだ。
 続いては、日本列島の形成。もともとユーラシア大陸の西端に直線状にくっついていた日本列島が。東端と西端で回転し、今のような弧状の列島を形成した。地磁気の詳細な測定と年代決定の結果、このような移動が起きたことが立証されたという。1500万年ほど前に、100万年ほどの時間で、日本海が形成されたという。年率50センチというのは、ものすごい変動だな。人間が見ていても、わかりそうな変動。さらに、フィリピン海プレートは、3000万年ほど前から形成され始め、ユーラシアプレートと衝突する。軽いフィリピン海プレートは沈み込まず、伊豆半島は日本列島に衝突する。また、この時期、日本列島では巨大な噴火がいくつも見られたという。本当に人類が文明を築いた期間というのは、例外的に安定していた時期なんだなあと。こういうすさまじい変動が見られないのは、幸いというか。
 第三章のプレートの形成。地球のような、複数のプレートが存在し、沈み込み合う状況は、太陽系の他の惑星には見られない。金星では、マントルより冷たく重いプレートが、ある程度の厚さまで成長すると、重力不安定となり地表がすべて崩落する「全球表面更新事件」が発生し、新たに薄いプレートが形成されるという。それに対し、地球上では海が存在し、その水が岩盤の強度を減少させ、クラックを形成する。クラックには、応力が集中し、そこに大断層が出現する。ひとたび、沈み込みが始まると、自己の重量で引き込まれ、裂けた隙間からは、マグマがあふれる海嶺が形成され、新しいプレートが供給されるようになる。


 最後は、このような大変動帯に居住する日本人が、地震や噴火という災害に、どう対面していくか。ハード対策より、減災の重要性を指摘する。確かに、本当に大規模な災害には、ハード対策は機能しないと考えたほうがいいんだろうな。例えば、釜石の湾口防波堤が東日本大震災に抗し得なかった、あるいは震度7の振動が起きた場所では通信機器による情報伝達が機能しない。しかし、一定程度までは、災害を受け止めることができるのは確かなわけで。田老の長城も、チリ地震津波は防いだのだし。
 あと、噴火にしろ、地震にしろ、予測に対しては割合悲観的なのが興味深い。地震に関しては、事前の予知は無理だろうと。また、巨大噴火に関しては、100キロ四方、深さ数十キロをカバーする観測システムを形成しないと、キャッチできないと。破局噴火の確立の意外な高さも含めて、怖いな。阿蘇も、すっかり丸くなったと理解していたが、まだ暴れるかもしれないのか。
 首都機能を含め、人口や機能の集中を分散させる対策。あるいは、災害に可能な限りの対策を打ちながら、それでも被害が防げないかもしれない「覚悟」の必要性。うーむ。


 以下、メモ:

 しかし実際の地球の表面は平板ではない。表面上をプレートが移動するために、その運動は球の中心を通る1つの軸の周りの回転運動となるのである。このことは図2-2bによって直感的に理解できるであろう。この回転軸と球面の交点を「オイラー極」と呼ぶ。いくつもの定理や公式を生み出した18世紀の偉大な数学者・物理学者であるオイラーが、この球面上の運動に関する定理も見いだしたからである。図2-2bでは、プレートAに対するプレートBのオイラー極を示してある。球面での回転運動であるのだから、オイラー極からみた赤道上でプレート運動の速度は最大となるはずである(再び、図の矢印の長さに注目)。日本列島に大きな影響を与えている太平洋プレートを例にとると、日本海溝と伊豆・小笠原・マリアナ海溝で運動速度が違っている(12ページ図1-1)のもプレート運動が回転運動である証拠である。ちなみに、日本海溝付近は地球上で最も高速でプレートが押し寄せている場所の一つである。p.64

 へえ。回転運動なので、場所によって速度差ができると。

 巨大海底地滑りに伴う津波の例としては、紀元前6100年にノルウェー沖で起こった「ストレッガ・スライド」を挙げることができる。この時には、スコットランドでも海辺から約80キロメートル内陸部まで津波が押し寄せたことが堆積物の解析によって確認されている。p.87-8

 こえー

 大地震の前に断層の小規模な破壊が起こり、いわゆる前震が発生する可能性はある。しかしながら日本列島のように小規模な地震が頻発する変動帯で、前震とそれとは独立の小規模な地震を正確に認識することは相当に困難であることは明らかである。多くの場合、大地震発生後に実はその前に前震があったと公表するのである。これではとても予知とは言えまい。p.155

 ノイズ多すぎと。

 図4-7を見ると、過去12万年の巨大噴火は九州と東北北部‐北海道に集中しているように見える。巨大噴火がどのような条件で発生するものかは、まだ解明された訳ではないが、これらの地域では地殻の中部から下部に堆積岩などの比較的融点の低い物質が存在すること、地殻が圧縮ではなく引き伸ばされる状態にあるために巨大なまぐま溜が形成されやすいことなども要因になっていると想像する。p.175-6

 うひー