守誠『ユダヤ人とダイヤモンド』

ユダヤ人とダイヤモンド (幻冬舎新書)

ユダヤ人とダイヤモンド (幻冬舎新書)

 ダイヤモンド産業の歴史とユダヤ人の関係を解説した書物。簡単にダイヤモンドの歴史を知るには悪くない。個人的にはダイヤモンドが「産業」になる以前が興味あるので、そのあたりが残念。あと、ダイヤモンドってカルテルで価格を維持して来たわけだが、それって宝石としてはものすごく胡散臭いと思っている。
 三、四章は中世までのダイヤモンドの歴史。中世にはダイヤモンドは三流の宝石で、ルビーの価格の八分の一、ルビー、エメラルドの評価が高かったという。金細工の添え物のような地位にあったという。第四章では、ダイヤモンドはカットを施されて光が反射屈折して初めて美しい宝石となるが、その発展の歴史。1476年にベルケムがブリュージュでカットを始めたというのは誤りで、1373年にニュルンベルクにはダイヤモンド研磨工ギルドが存在し、裁判記録でも1465年の裁判記録に、ブルージュでルビーの真贋を裁く法廷にダイヤモンド研磨工が呼び出されているという。ただ、本書ではカットや研磨の技術の展開には言及していない。
 第五章はスペインからのユダヤ人追放とアムステルダムがダイヤモンドの取引加工の中心地になる状況。原石供給地の変化。インドの原石生産の枯渇、1725年からのブラジルからの供給の時代、1866年以降は南アフリカからと資源供給の変遷。景気変動と中心地の移動。20世紀にはアムステルダムが凋落し、アントワープが低賃金を武器として加工の中心地として躍進する。アントワープが昔からの中心地と思っていたが、時代によって中心地は移動しているのだな。
 第六、七章は、南アフリカのダイヤモンド原石の独占をめぐる争い。セシル・ローズとバーニ・バーナトの独占をめぐる対立と、それに重要な役割を果たしたロスチャイルドの金融力。さらに、新興のアーネスト・オッペンハイマーによるカルテル体制の構築。なんというか、胡散臭い商売だなあとしか…
 第八章は、ナチスによるユダヤ人所有のダイヤモンドを奪取する動き。なんともえげつない話でござった。アントワープユダヤ人ダイヤモンド業者を油断させ、一気に所有するダイヤモンドを奪う陰謀。それを現場で担当したフレンゼルとその一党によるダイヤモンドと現金の横領の話。どこまで信用できるか分からないが、すごい話だ…
 第九章と第十章は戦後の話。現在では、ダイヤモンドの研磨石はインドとイスラエルが中心なんだそうだ。両国ともに、ダイヤモンドの輸出が、品目のトップを占めるという。インドはオーストラリアの低質小粒の原石を、児童を含む低賃金で加工することで市場を押さえているという。あとは、デビアス社の原石カルテル廃止宣言や同社の経営戦略の話。キリスト教徒の会社となったデビアス社とユダヤ人の関係など。

 右の貿易数字でも明らかなように、輸出額のいちばん多い品目はダイヤモンド研磨石で、2004年では、102億7800万ドルにのぼった。輸出全体の12パーセントを占める。金額はともかく、「インド最大の輸出商品がダイヤモンド研磨石である」事実は、案外知られていない。輸入額は第四位で、92億2400万ドル、8.5パーセントを占める。もっとも資源バブルが世界的に起こり、インドでもその影響が出て、石油製品の輸出高が輸出全体のトップの座をうかがうようになった。2006年には石油製品が輸出第一位に躍り出た。p.237